インバウンド戦略で成長する白馬最大のマウンテンリゾート会社
白馬観光開発株式会社 代表取締役 和田 寛 様
Q.社長就任の経緯は?
2000年に大学を卒業し、「山や自然が好きで、素敵な日本の田園風景や自然環境を後世に残したい」という理由から農林水産省に入省した。しかし、数年働くうち役所の理屈だけでは世の中を良くすることができないと痛感した。もっとビジネスを良くする術を習得し、実際に世の中を良くする仕事がしたいという気持ちが強まり、戦略コンサルティングファームのベイン・アンド・カンパニーに2008年に転職。
ベインでの仕事は日々エキサイティングで、実際目の前で顧客の経営が良くなる瞬間に何回も立ち会うこともでき、最初はちょっと勉強のつもりで入った会社に7年近くもいることになった。しかし、一方で当初の「日本の田園風景や自然環境を良くする仕事に携わりたい」という気持ちが満たされることはなく、悶々とする毎日だった。
一方、中学の同級生と一緒にのめりこみ始めたスキーや、小学生時代に父親に北アルプス縦走に連れて行かれて以来大好きになった山登りは、途中中断はあったもののベイン時代にはかなりの高頻度で楽しむこともでき、衰退するスキー場や廃墟が増える田舎の光景を目にするたびに「何とか貢献したい」という気持ちが高まっていた。
中でも白馬の圧倒的な山の大きさと山岳景観に惹かれていたところ、白馬観光開発(株)の親会社である日本スキー場開発(株)のHPを見たことがきっかけで中途採用に応募。2014年11月に入社し、その日のうちに、経営企画室長として白馬観光開発に出向した。入社後は、経営企画室長や営業企画本部長として、白馬バレー10スキー場の共通ゲートの導入や外部企業とのタイアップ企画による新施設導入などを担当し、2017年10月に社長に就任した。
Q.どのような理念・想いで、どのような事業を展開しているのか?
当社は長野県の北アルプス白馬山麓地域で白馬八方尾根、白馬岩岳、栂池高原の3つのスキー場を運営する地域最大の索道会社であり、地域を元気にするための集客装置としての役割を果たしている。
今後とも地域が潤い続けるためには、当社がしっかりと施設の更新を続け、新しいお客さんへのアピールを強め、今以上にお客さんを地域に集め続けないといけない。一方、国内スキー市場自体は今後の若年層の人口減少が予測される中、市場環境は厳しい。このため、当社としては、白馬の圧倒的な大自然や山岳景観の美しさを背景に、白馬を「世界水準のオールシーズン・マウンテンリゾート」に昇華させていくことが重要と考えている。
Q.和田社長が目指す「オールシーズン・マウンテンリゾート」とは?
この言葉には大きく二つの意味合いを込めている。
一つ目は「オールシーズン」。白馬というと冬のイメージが先行すると思うが、例えば八方尾根上部の八方池は米国CNNから「日本の最も美しい場所34選」に選ばれ続けるなど、白馬はグリーン期(春~秋)の素材も一級品だ。雇用の安定や周辺の観光施設の稼働の安定=経営の安定につなげるためにも、こうした素材を最大限に活用しながら当社が積極的にグリーン期の集客力を高めていくことは非常に重要と考える。
もう一つが「リゾート」。社内で良く話をしているのは「海水浴場とビーチリゾートは違う。同様にスキー場とスノーリゾート、マウンテンリゾートも違うはず」ということ。リゾートとは、大自然の中で非日常を感じ、心に抱えている鬱屈を開放できる場所。ビーチリゾートにいてただひたすら海で泳ぐことを目的とする人はいない。様々な遊びがあり、素敵なレストランやバーがあり、綺麗なプールやパラソル、ビーチチェアがあり・・こうしたものがトータルとなってお客さんは非日常的な環境でゆったり過ごすことができる。そういう意味で当社が目指すのは、雪山という非日常感のあるロケーションの中で、様々な遊びを楽しみ、火に暖まりながらおいしい食事を取ってゆったりした時間を過ごすことのできる「スノーリゾート」だ。
Q.「オールシーズン・マウンテンリゾート」として、具体的にどのような取り組みを行っているのか?
一つ目の象徴的な取り組みは、リゾート・ビールのイメージの強いコロナビールさんとの取り組み。八方尾根スキー場内に北アルプスの山々やはるか眼下に白馬の村を眺めることのできるオープンテラスがあったが、これまで冬季には使われていなかった。これを2016年冬からコロナさんと提携し、バーカウンターやソファ、焚火台やDJブースなどを作って改装し、コロナ・エスケープ・テラスとしてこれまでの日本のスキー場にはない空間を創出した。昨シーズンには、1万人以上のお客様にこうした非日常な空間を楽しんでいただくことができ、多くの楽しむ姿がSNS上にアップされた。
また、「オールシーズン」の例としては、白馬岩岳MTBパークの復活がその第一歩だ。白馬岩岳は1990年代までは「マウンテンバイク(MTB)の聖地」と呼ばれ、年間2万人を超えるライダーが集結していたが、バブル崩壊後いつの間にかMTBパークは休止され、山の活気も失われていた。そんな中、ローカルのライダーたち有志が2015年から「山を復活させよう」と徐々にコース再開に取り組んでいた。そうした流れを見て、2017年に当社としても大きな投資を行い、「MTBの聖地復活」を目指した取り組みを加速した。この際、日本にまだない「初心者・初級者が楽しめるトレイルを作る」というコンセプトの下、オーストラリアからW杯のコース造成に携わったトレイル・ビルダーを招致し、上下左右にゆったりと揺られながら全長7km近いコースをのんびりダウンヒルできるコースを造成した。これにより、初年度で6000人近い来場者を迎えることができ、2年目の2018年には1万人超えを目論んでいる。
Q.マウンテンリゾートとしての今後の事業展開は?
直近、二つの大きな新規投資を計画している。
一つ目が、2018年8月オープン予定の「HAKUBA TSUGAIKE ”WOW!”」。フランス発祥で既に世界15か国160か所近いパークを運営しているXtrem Aventuresの国内第一号店として、栂池高原スキー場の中腹にアドベンチャーパークを開業する。空中自転車綱渡り「コギダス」や三層ネット式アドベンチャー「アミダス」、チューブで急坂を下った後エアバッグや池に向けてジャンプする「トビダス」など、海外でも人気が高い、国内初のアトラクション満載のアドベンチャー施設となる。トレッキングを目的としたグリーン期の来場者が低下傾向にある中、ファミリー層や若者などがにぎやかに滞在時間を過ごすことのできる施設を追加することで、より幅広いお客様に栂池高原の魅力を味わっていただけるようになると確信している。
二つ目の大きな話題が、2018年10月開業予定の絶景テラス&ベーカリーカフェ「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR」。白馬岩岳の標高1289mの山頂に位置し、テラスからは白馬三山(白馬岳、杓子岳、白馬鑓ヶ岳)の絶壁を正面に見据え、南北に広がる北アルプスを一望する絶景をテラスでゆったりと寛ぎながら楽しめるようになる。施設内には、1990年にニューヨークで開業し現在東京や大阪などで人気を博する老舗ベーカリー「THE CITY BAKERY」もオープンする。
こうした新規投資を皮切りに、既存施設の更新や、さらに外部の有力パートナーと提携も進めながら魅力あるアトラクションを継続的に追加していくことで、より集客力のある施設を創り上げていきたい。
一方で、「リゾート」としての魅力を高めていくためには、宿泊施設や商業施設など、地元施設との連携しながら街並み自体のリニューアルにも積極的に参画していきたい。
Q.今後のインバウンド戦略は?
まずはこれまで続けてきた長野県大町市、白馬村、小谷村の10のスキー場の総称である「HAKUBA VALLEY」という統一ブランドの展開をさらに強化していくことが重要だと考えている。海外からのお客様は平均7-10日程度滞在しており、「さまざまなバラエティ豊かなスキー場を手軽に移動して滑れる」という白馬エリアは他のエリアと比べて圧倒的な強みを持っており、これを最大限に活用していく。
2016-17シーズンからは、7ヶ所のスキー場でリフトの共通自動改札システムを導入し、大幅にユーザーの利便性を向上させた。これによりHAKUBA VALLEYは名実ともに「日本最大のスキー場」と謳えるようになっており、このブランドイメージの浸透も進めている。こうした成果もあり、直近の2017-18シーズンのHAKUBA VALLEYに訪れた外国人スキー客数は対昨シーズン比約45%増加し、33万人を突破した。この数字はニセコエリアに次いで国内二番目に多い数字となっており、国別にみると約半数がオーストラリアからの来場者、次いで台湾、香港となっている。
2018-19シーズンからは、さらに豪州や北米、欧州からの誘客を加速するため、世界最大のスキー場のアライアンスであるEpic Passにも参加。Epic PassホルダーはHAKUBA VALLEYにて5日間連続無料で滑ることができ、また、HAKUBA VALLEYのシーズンパスホルダーはEpic Pass参加の14スキー場において、リフトチケットが50%オフで購入できるようになる。
また、さらにインバウンドの来場者を増やしていくためには、地域一体となって宿泊施設のリニューアルや街並みの整備を進めていくことが大事である。ハイエンド客をターゲットにした大型リゾートホテルの誘致も必要なピースとなる可能性は高いが、民宿など既存の宿泊施設の再生を進めることが最優先と考え、これらのリニューアルを地域全体の仕組みとして進めていくこととしている。オーナーの高齢化が進むなか、共同で民宿を運営する組織の可能性も議論している。
Q.白馬観光開発の強みは?
最大の強みは、白馬という世界水準の魅力的な山岳景観、国内最高峰のスキー場をバックにしていること。白馬地域で一番大きな索道会社であり、一番の集客装置になっている会社だと自負している。地元に密着しながらビジネスを展開しており、地元の役に立つことを優先して進めることができれば、最終的には当社にもリターンが返ってくると考えている。
こうした中、上場企業である親会社による資金的なバックアップも大きな助けとなるし、外部投資家や外部パートナーとのネットワーク、こうした人たちをまとめながら新たな事業にチャレンジする事業企画力といったものが当社の強みになるのではないか。
Q.和田社長の経営者としての役割は?
まずは新規・更新に関わらず、資金を投資すべき対象を戦略的に見定めながら優先順位を正しくつけ、そこに対して内部のキャッシュフローを増大させる方策を見つけるとともに、足りない部分については外部から資金を調達すること。既存施設のリニューアルと新規の魅力追加が不可避なこのタイミングでは極めて重要な役割だと思う。
もう一つが、地元との連携を強め、「エリア全体を良くする」アイディアを出し、外部パートナーを見つけて事業を推進していくこと。具体的には宿のリニューアル・スキームの検討・推進や、街並みの整備、商業施設の誘致などがこれに当たる。
最後に、こうした激変期をリードできる社員を多く育てていくこと。人事制度の見直し、業務権限の見直し、OJTとOff-JT双方の強化などを通じ、一人一人が自分の足で立って考え、地域を良くするために一歩踏み出して行けるような人材を一人でも多く輩出していきたい。
会社概要
会社名 | 白馬観光開発株式会社 |
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事業内容 | オールシーズン・マウンテンリゾートの運営(八方尾根、白馬岩岳、栂池高原のリフト・ゴンドラを運営する索道事業者) |
代表者名 | 和田 寛 |
代表プロフィール | 2000年3月 東京大学法学部卒業 2000年4月 農林水産省入省(一種事務官)。退職時は生産局園芸課課長補佐。 2004年8月-2006年5月 Duke大学留学(MBA取得) 2008年3月 農林水産省退職 2008年4月 外資戦略系コンサルティングファーム ベイン・アンド・カンパニー入社。以後、戦略立案、M&A推進、マーケティング、オペレーション改善等のプロジェクトに携わる。退職時はプリンシパル 2014年11月 日本スキー場開発に入社。同時に子会社である白馬観光開発に配属。経営企画室長、経営企画本部長を経て2017年10月より現職。 |
沿革 | 昭和33年7月4日設立 昭和33年12月 八方尾根地区営業開始(白馬ケーブル〈現八方尾根ゴンドラリフト〉・八方山荘他) 昭和35年12月 八方尾根第2次開発(パノラマリフト、八方レストハウス) 昭和37年12月 栂池高原地区営業開始(からまつリフト、東急山荘他) 昭和39年12月 栂池高原地区第2次開発(つがリフト、栂の森山荘他) 昭和41年12月 岩岳地区営業開始(岩岳第1リフト、岩岳レストハウス他) 昭和44年12月 岩岳地区第2次開発(岩岳第4リフト、岩岳第2レスト他) 昭和55年 1月 増資資本金240,000千円 昭和57年12月 栂池高原ゴンドラリフト開業 昭和58年 9月 栂池高原ゴンドラリフト㈱設立 昭和58年12月 八方尾根ゴンドラリフト開業/カフェテリア栂の森建設 昭和60年 8月 ㈱岩岳リゾート設立 昭和61年12月 岩岳ゴンドラリフト開業 昭和62年12月 兎平109(現うさぎ平テラス)建設 平成元年12月 岩岳スカイアーク建設 平成 2年12月 つがいけ雪の広場建設 平成 2年12月 栂池高原スキー場ナイター設備の新設 平成 6年 8月 栂池パノラマウェイ開業(栂池ロープウェイ/栂池高原ゴンドラリフト) 平成 7年 7月 白馬塩の道温泉「岩岳の湯」開業 平成 8年12月 TENBO REST SPOT 1680 建設 平成11年12月 栂池温泉「栂の湯」開業 平成16年12月 エコアクション21取得 認証・登録番号0000075 平成22年 7月 うさぎ平テラスオープンテラス増設 平成24年11月 日本スキー場開発(株)グループ傘下となる 平成27年 4月 日本スキー場開発㈱ 東証マザーズ上場 |
本社所在地 | 〒399-9301 長野県北安曇郡白馬村大字北城6329番地1 |
URL | http://www.nsd-hakuba.jp/ |