ITで外食産業を変革するFood Techベンチャー

株式会社こころ 代表取締役社長 渡邉 一博 様

Q.なぜ大手IT企業を辞めて、外食で起業したのか?

大学を卒業して、外資系ソフトウェア会社のオラクルに入社した。当時は、ITバブル前夜で、IT業界全体が盛り上がり始めていた。また、オラクルも上場直後だったため、先輩社員の羽振りもよく、「自分もいつか起業しよう」と思うようになっていた。オラクルでは7年半に渡り、エンジニア業務、セールス業務を経験し、企業向けビジネスのいろはを学んだ。

オラクルで働く中で知り合ったのが佐藤(現・副社長)であり、彼は当時、日本IBMで働いていた。お互いIT企業でサラリーマンをしながら、私が31歳の時、彼と一緒に起業した。起業直後は、ホームページ制作やサーフィン旅行のオンライン販売を手掛けていたが、ビジネスとして成長する期待が持てなかった。また、企業を相手にIT事業をやっていても、「自分たちの事業が誰かを笑顔にしている」という実感を持つことができなかった。

そこで、大きく方向転換し、外食事業に参入することにした。私も佐藤も学生時代に居酒屋でアルバイトをした経験があり、外食はお客様との距離が近く、お客様の笑顔を実感しやすいと感じていた。また、外食は24兆円と巨大市場であるものの、大手企業の市場占有率が低く、勝機があると考えた。トップ企業のゼンショー・ホールディングスでさえも市場シェアは2.3%と低く、圧倒的な強者がいない市場なのである。中小零細企業における競争は激しいものの、当社が戦略的に競争優位を築くことができれば、勝ち残れるのではないかと思い、外食への事業転換を決めた。

Q.どのような理念で、どのような事業を展開しているのか?

「人と食を繋ぐHUBとなり、 価値の提供と笑顔を創造する」というミッションのもと、 「お客様のこころを満たし、従業員のこころを育てる、こころに笑顔を咲かせる外食IT企業」をビジョンとして事業を展開している。

事業としては、「外食事業」と「外食プラットフォーム事業」の2つの事業を展開している。売上高は、前期(2017年3月期)は9.5億円であったたが、2017年3月に居酒屋「凛や」などを展開する株式会社静岡喜八廊(静岡県磐田市)を買収したことにより、今期(2018年3月期)のグループ全体の売上高は17億円に上る見込みだ。静岡県内の外食企業ランキングで見ると、トップ10に入る規模となった。

Q.外食事業の内容は?

「外食事業」においては、自社ブランドでの展開にこだわっており、2017年5月現在で、5ブランド・19店舗を展開している。お客様の心を満たせる店づくりを目指しており、食材や生産者情報の見える化などにこだわっている。

主力の業態は、「てんくう」という創作居酒屋ダイニングで、洗練されたシンプルモダンなデザイナーズ空間と独創的な演出を売りにし、現在11店舗を展開している。この他、上質なお肉と生産農家直送の新鮮野菜のしゃぶしゃぶ食べ放題を楽しめる「但馬屋」などを展開している。

また、展開ブランドの多様化を進めており、2017年6~7月にかけては、地場野菜と真空プレスジュース、オリジナルパンケーキやホットサンド、全国から取り寄せた厳選肉が楽しめるカフェダイニング「Vege Tree Cafe」、街中の屋上で”静岡食材”を使ったBBQを楽しむことができる「Shizuoka BBQ TERRACE」、地場野菜と茶蕎麦、全国から取り寄せた旬の鮮魚が楽しめる地酒居酒屋「魚天」などを新規出店する。

今後は、原価や人件費などを管理する独自開発のITシステムを使った店舗のフランチャイズ展開やコンサルティングサービスも提供していく。

Q.外食プラットフォーム事業の内容は?

「外食プラットフォーム事業」については、クラウド型の外食管理ITシステムと外食業務プロセスのノウハウを提供しており、外食産業に特化したBPO「FS-BPO(フードサービスBPO)」を追求している。

当社の外食管理システムにおいては、売上や予約などを一元管理する「トランザクション管理」、店舗開発やメンテナンスを一元管理する「アセット管理」、人事や教育制度を一元管理する「HR管理」、会計や総務を一元管理する「ファイナンス&アドミン管理」という大きく4つの機能を実装している。これらを網羅すれば飲食店のバックオフィスを管理することができる。

また、「外食プラットフォーム事業」におけるビジネスモデルは大きく2つある。一つは、システムの月額利用料であり、もう一つはシステム導入時の導入コンサルティングや、定期的なレポーティング&改善アドバイスだ。

Q.今後のビジョンは?

まずは、「外食プラットフォーム事業」の基盤を作りたい。外食産業の管理ノウハウを更に磨き上げ、日本の飲食店が海外に進出する際にも、当社のシステムを利用してもらえるようにしたい。現状、海外進出時に統合化された管理システムを持ち合わせているのは、大手企業のみで、大半を占める中小企業では管理システムが統合化されておらずバラバラになっている。そこで、当社の飲食店管理ノウハウを生かしたシステムを提供できるようになれば、海外で成功する飲食店が増えるはずだ。そのような考えの下、外食管理プラットフォームのグローバル展開を目指している。

一方、「外食事業」においては、自社で10〜20店舗を運営しつつ、フランチャイズ・ネットワークを拡大していきたい。また、「外食事業」で今後注力していきたいのが、静岡県産の地場野菜にこだわり、より生産者とお客様の距離を近づけていく取り組みだ。具体的には、生産者や生産現場の見える化を図るため、地場野菜を使った料理をご注文いただいたお客様に、「野菜の紹介動画」や「生産現場のVR動画」を楽しんでもらえるようなサービスを展開したい。当社は、県内の美味しい食材を取りまとめている「静岡の食のトレーディングカンパニー」として、海外に向けた情報発信やブランディングも展開していきたい。

Q.今後の課題は?

いかに人材の確保を行うかが、重要な課題になっている。地方企業にとって、人材の確保は容易ではない。特に、新規事業の立ち上げに長けた人材が不足していると感じている。もう一つは、財務面だ。現在、積極的な店舗拡大や新規事業の立ち上げを進めているため、より緻密な経営計画、財務計画を策定していく必要がある。

会社概要

会社名株式会社こころ
事業内容・外食事業(業態開発、店舗展開および運営)
・外食プラットフォーム事業(外食クラウドサービス、外食オムニチャネル)
代表者名渡邉 一博
代表プロフィール1975年広島県広島市生まれ。早稲田大学理工学部材料工学科卒業後、日本オラクル株式会社(東証一部上場)に入社。3年間のITコンサルタントおよび4年間のセールスコンサルタントとして勤務。2007年、創業し現在に至る。
沿革2004年 法人登記
2009年 「てんくう 浜松有楽街店」オープン
2016年 株式会社こころへ商号変更
2016年 6次産業ECモール「しずも」、飲食店メニュー翻訳クラウドサービス「グルメニ」サービス開始
2017年 株式会社 静岡喜八廊の全株式を取得
2017年 経済産業省「はばたく中小企業・小規模事業者300社 生産性向上部門」に選定
本社所在地〒430-0926
静岡県浜松市中区砂山町350 浜松駅南ビルディング7F-A
URLhttp://www.cocoroch.jp/