20年前から日本酒を海外輸出、120年以上続く酒造メーカー

出羽桜酒造株式会社 代表取締役社長 仲野 益美 様

Q.創業から120年以上続く老舗酒造メーカーとして大切にされていることは?

変わらぬ不変のポリシーとして掲げていることは、大きく5つある。第一に、地元の皆様に愛され、地元で存在感のある酒蔵であること。県外や海外でいくら評価されても、地元で評価されなければ意味がないと考えている。第二に、メーカーとして圧倒的大差のある分かりやすい品質を追求するということ。日本酒の初心者でもはっきりと違いの分かるお酒を造り続けたい。第三に、価格と相まっての価値であるということ。値引きすることもなければ、プレミアムを乗せて高くすることもなく、品質に見合う適正価格で提供していく。第四に、吟醸酒に力を入れているということ。特に、手軽に楽しめる吟醸酒を強化している。第五に、利益を社会に還元するということ。自社だけが利益を上げればいいとは考えていない。一例として、公益財団法人の美術館を運営している。この5つに加え、言うまでもないが、社員の幸せを追求していく。

Q.販売エリア、販売チャネルは?

販売エリアとしては、地元・山形県が50%を占めている。また、1997年から海外への輸出を開始し、現在では売上に占める海外比率は6%となっている。この海外比率を10%にまで高めたいと考えている。残りの44%は、東京を中心とする日本全国各地で販売されている。

販売チャネルとしては、直接小売店に販売するパターン、卸売り会社に販売するパターンが主である。オンライン販売、消費者への直接販売は行っていない。今まで当社を育てて頂いた小売店などの皆様を裏切りたくないという想いが強く、オンラインによる直販は考えていない。ただし、ワインツーリズムのように、「酒蔵ツーリズム」のようなイベントを開催し、消費者の方々と直接接点を持てる機会を増やしていきたい。

Q.日本酒業界の海外展開はどのような状況か?

日本酒業界全体としての海外輸出はまだ始まったばかりだ。「日本酒造組合中央会」において、「海外戦略委員会」が立ち上がったのも、まだ9年前のことである。日本酒の海外輸出量は、日本酒市場全体の2~3%に過ぎず、まだ155億円の市場規模でしかない。フランスのワインは、全体の40%弱、数兆円が海外に輸出されている。これと比較しても、日本酒の海外輸出はまだまだ伸び白が大きいと言える。日本食が世界中で憧れの対象になりつつあるが、日本食のファンは、日本食に合う日本酒を求めている。

Q.出羽桜酒造の海外展開は?

当社は20年前から日本酒の海外輸出を開始しており、業界でもかなり早い段階から取り組んできた。これからも日本酒を愛し大切に扱って頂ける方々とのお付き合いを増やしていきたい。そして、飲食店にとどまらず、街のリカーショップでも日本酒を買えるように尽力したい。海外輸出は良い現地パートナーと組めるかどうかが、成功のカギだ。

米国は良いパートナーと組むことができ、良い流れが創り出せている。当社の海外輸出に占める国別の割合としては、米国が60%、香港が10%、残りはイギリス、中国、韓国、台湾などが占めている。

Q.強みは?

最大の強みは、創業以来125年以上に渡って築き上げた信用力だ。信用というのは、短期的に築けるものではない。長年に渡って築き上げた信用は、深さや幅が違うと思う。会社の経営で一番大切なのは、存続し続けることだ。その一方で、挑戦と変革を大切にしており、常に変化していこうという意識を持ち続けている。

また、優秀な製造陣(杜氏)にも恵まれている。当社の製造工程は機械化しておらず、全て手作りで行っているが、製造に関する情報やノウハウを極力オープンにしている。それにより、優秀な人材が入社してきてくれる。研修生も毎年受け入れており、現在まで17名が卒業した。

Q.「挑戦と変革」の具体的な取り組みは?

「桜花吟醸酒」という手軽に楽しめる吟醸酒を出したことだ。普段飲んでいるお酒にプラス300円~500円で提供が出来れば、吟醸酒がより身近になり、日常的に飲んで頂けるのではないかと考えている。従って、当社では、大吟醸酒だけではなく、様々な吟醸酒に力を入れている。

一般的な酒蔵では、吟醸酒、純米酒などの高付加価値商品の割合は25%、スタンダードが75%程度であるが、当社の場合は、高付加価値商品が75%、スタンダードが25%程度となっている。

Q.人員構成は?

通年で勤務する従業員は45名。内訳は、製造・製品関連が31名、営業職が8名、事務職が6名となっている。また、これとは別に、冬場だけ半年ほど勤務する製造関連の従業員が20名ほどいる。

Q.今後のビジョンは?

業界全体のビジョンとしては、近年、日本酒がスポットライトを浴びているので、何とか日本酒市場の右肩下がりを食い止めたい。

当社のビジョンとしては、売上高に占める海外比率を5年以内に10%にまで引き上げたい。加えて、日本酒として、県単位で初めての地理的表示(GI)認定を受けた「山形」を日本酒の産地として世界にアピールしていきたい。ワインが、「ボルドー」や「ブルゴーニュ」などの産地で語られるように、日本酒も「山形」という産地を語ってもらえるようにしたい。

Q.人材採用の方針は?

日本酒の製造に興味がある方を採用したい。ワインはブドウ作りだが、日本酒製造は生きた微生物を扱う仕事だ。その醸造工程が一番楽しく、遣り甲斐のある仕事だ。お客様の反応がダイレクトに見えることも、日本酒という最終製品を作ることの魅力である。このような仕事に魅力を感じてくれる人を採用していきたい。

求める人物像としては、第一に、向上心を持っている人間。良い会社とは、向上心を持った人間がたくさん集まる会社だと考えている。第二に、素直な心を持った人間。厳しく指導され、咤激励を受けたときに、素直な気持ちで受け止めることができる人間は、周りから可愛がられ、より成長していくと考えている。

会社概要

会社名出羽桜酒造株式会社
事業内容清酒製造および販売業
代表者名仲野 益美
代表プロフィール1964年、天童市生まれ。84年に東京農大農学部醸造学科を卒業後、旧国税庁醸造試験場、東京の酒類卸会社を経て87年に家業の出羽桜酒造へ。取締役、専務を経て父親の急逝に伴い2000年に39歳で社長就任。山形県酒造組合技術委員長、日本吟醸酒協会理事長、東京農大客員教授、東京大学非常勤講師、山形県行政支出点検・行政改革推進委員会委員なども務める。
沿革1892年 白梅醸造元として仲野酒造創業
1953年 仲野酒造株式会社として法人化
1988年 財団法人出羽桜美術館開館(現在 公益財団法人)
1997年 輸出本格化
2016年 IWCにて純米酒「出羽の里」チャンピオン・サケ受賞
本社所在地〒994-0044
山形県天童市一日町一丁目4番6号
URLhttp://www.dewazakura.co.jp/