世界のものづくりを変えるマイクロ波技術ベンチャー
マイクロ波化学株式会社 代表取締役CEO 吉野 巌 様
Q.起業までの経緯は?
大学卒業後、三井物産に入社し化学品本部で働いていたが、入社10年目にUCバークレーのビジネススクールに留学した。米国留学中、ベンチャー企業という世界を見て、興味を引かれた。その後、エネルギー・ベンチャーを支援する会社で仕事をしたが、「支援する側でなく自分で事業を興したい。」、「環境・エネルギー分野で起業したい」という想いが強くなった。起業を模索している中で、共同創業者となる塚原と出会った。当時、彼は、大阪大学の准教授としてマイクロ波化学の研究をしていた。私は、塚原の「技術を世の中に出したい、世界に広めていきたい」という情熱に共鳴をして、彼と共同で当社を創業するに至った。
Q.なぜ、マイクロ波の技術で世界を変えられると思ったのか?
マイクロ波を使うことで、化学反応に必要なエネルギーの伝達手段が、「間接・全体」から「直接・狙った分子」に完全に変わる。これは、不連続のイノベーションであり、化学産業が根底から変わるようなパラダイムシフトである。一方で、マイクロ波は通信分野や電子レンジなど、70年以上前から電機産業を中心に使われてきており、特に目新しい技術では無い。ただ、たった一つのイノベーティブな技術だけで、世界を変えていくようなベンチャー企業はむしろ数少ない。AppleやTeslaなど成功している技術ベンチャーの多くは、従来からある様々な要素技術を組み合わせて、新しい産業を興して、大きなイノベーションを創造していることが多い。
当社も、従来からあるマイクロ波技術に電磁場シミュレーションなどの要素技術を組み合わせて、化学分野に適用することで、新しくマイクロ波化学産業を興して、大きなイノベーションを実現することができると考えている。
Q.創業時はどのような事業を行っていたのか?
「社会に対してインパクトのある事業を行い、環境・エネルギー分野に貢献したい」という想いは創業時から変わらない。ただ、創業当初は、マイクロ波を使って、廃油からバイオディーゼルを作り、オンサイトで処理する事業を考えていた。しかしながら、オンサイト処理のハードルが高く、事業としてもスケールが大きくならないと気づき、自社でバイオディーゼルを集中生産する事業を立ち上げた。2年間はバイオディーゼルの集中生産を志向していたが、バイオディーゼル市場が立ち上がる気配がなかった。ある時、「東洋インキ」から当社のマイクロ波技術を使いたいという声がかかった。この取引をきっかけに燃料から化学品の生産へとシフトすることになった。
Q.現在の事業内容、ビジネスモデルは?
現在は、マイクロ波に関わるプラットフォーム技術を提供しており、化学メーカー、製薬メーカー、自動車部品メーカーなどが主な顧客になる。創薬ベンチャーと似たモデルをとっており、顧客企業から開発費やマイルストーンペイメントを受けて当社がマイクロ波を活用した研究開発を行い、事業化された時には、その対価として技術ライセンス費用をいただくというビジネスモデルだ。
2014年、大阪市住之江区に設立した工場によって、マイクロ波に関するプラットフォーム技術を培うことができた。その結果、マイクロ波を使って化学品を生産するために必要なあらゆる技術やシステムを総合的に提供できるようになった。このような工場は世界でも初である。
Q.当社の強みは?
一番の強みは、マイクロ波化学の基盤技術を確立できた開発チームだ。マイクロ波化学は異分野融合により成り立っており、物理学のノウハウ、化学のノウハウ、それらのノウハウを具現化するエンジニアリングが必要になるのだが、当社の開発チームはそれらを全て兼ね備えている。加えて、マイクロ波に特化した事業を行い、創業から10年間で蓄積したノウハウ、技術、チーム、開発拠点、スケールアップに必要な設備が備わっていることは、他に類を見ない。
Q.破壊的なイノベーションに見えるが、事業化する上で苦労したポイントは?
まさに、前述したように、馬車から自動車に変えるくらいの破壊的なイノベーションだ。化学業界は100年近く大きな変化が起こっていない装置産業であるため、新しい技術の導入を提案してもすぐには受け入れて頂けない。また、ものづくりの世界では、どれほど画期的な技術であっても、「安全・安定・安心」が大前提となるため、時間をかけて地道に実績を積み上げていく必要がある。
Q.化学業界のような変化の少ない業界で、事業機会を見つけるには?
確かに、化学業界は変化が少ない業界ではあるが、そのような業界であっても世の中の流れに沿って変化している分野は必ず存在する。その変化に乗っていくことが重要だ。また、当社は、電気産業と化学産業の間に、マイクロ波化学という新しい産業を作ろうとしているようなものであり、既存の産業を掛け合わせることで新たな事業機会を見つけることができると考えている。
Q.今後の事業戦略は?
当社が顧客に提供できる価値は大きく2つある。一つは省エネ・高効率・コンパクトなプロセス革新を通したコスト低減、もう一つは新素材開発などの製品の品質向上だ。つまり、マイクロ波を活用すれば、良い製品を低コストで開発することが可能になる。今は技術の黎明期であるため、あえて特定の産業分野に特化することはせず、幅広い産業のお客様と取引し、世の中のニーズを広く汲み上げているところだ。当社にはまだ見えていないニーズが沢山ある分、成長の伸び代は大きい。
現在、「太陽化学」と四日市市で工場の立ち上げを進めているが、今後も毎年1~2つの工場を立ち上げていきたい。幸いにも、化学メーカーから問い合わせを多くいただいている。
Q.これまでの資金調達は?Exitプランは?
過去5回にわたり、計14社から総額35億円の資金調達を行った。投資家は金融系の企業が中心だが、技術やものづくりに理解のある企業が多い。技術開発の資金は継続して必要になり、また人材採用を有利に進めるためにも、将来的にはIPOを果たしたい。
会社概要
会社名 | マイクロ波化学株式会社 |
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事業内容 | ・マイクロ波化学プロセスの研究開発及びエンジニアリング ・マイクロ波化学プロセスを活用した製品製造における合弁事業、ライセンス事業 ・マイクロ波化学プロセスを活用した製品の製造・販売 |
代表者名 | 吉野 巌 |
代表プロフィール | 三井物産(株)(化学品本部)、米国にてベンチャーやコンサルティングに従事。 2007年8月、マイクロ波化学㈱設立、代表取締役就任(現任)。 1990年慶応義塾大学法学部法律学科卒、2002年UCバークレー経営学修士(MBA)、技術経営(MOT)日立フェロー。 |
沿革 | 2007年 マイクロ波化学プロセスの事業化を目的として、マイクロ波環境化学株式会社を京都市に設立 2011年 UTEC(東京大学エッジキャピタル)を引受先に総額1億2千万円のシリーズA増資を実施。社名をマイクロ波環境化学株式会社からマイクロ波化学株式会社へ変更 2012年 神戸工場より第一号製品となる脂肪酸エステルの出荷を東洋インキ株式会社向けに開始。研究開発の加速及び大阪工場立上を目的として、UTEC、NVCC、新生銀行、JAFCOを引受先に総額7億円強のシリーズB第三者割当増資を実施 2014年 新規事業立上げおよび次世代パイプラインの研究開発強化を目的として、INCJ、JAFCO、UTEC、NVCCを引受先に総額12億円のシリーズC第三者割当増資を実施 2015年 太陽化学株式会社との合弁会社で建設する新工場の建設資金及び、さらなる事業領域拡大のための開発資金として、総額8.8億円のシリーズD第三者割当増資を実施。 2017年 太陽化学との合弁事業による、マイクロ波を用いた食品添加物製造工場が三重県四日市市にて竣工。合弁プラント事業のさらなる拡大と開発体制強化を目的に、総額4億円のシリーズE第三者割当増資を実施 2017年 三井化学株式会社とマイクロ波を用いた新規化学プロセスやシステムに関する共同研究開発を目的に戦略的資本提携 |
本社所在地 | 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2番8号テクノアライアンス棟 3階 |
URL | http://mwcc.jp/ |