Q.当社が設立された経緯は？

ニッソーネットは、私の父親が創業した会社の１つである。父は大手メーカーのサラリーマンだったが55歳で脱サラし、人材ビジネスで独立した。当時は工場やエンジニアの人材派遣を手がけていた。ニッソーネットはその子会社として設立され、父の人脈を活かし、創業当初は大手メーカーOBの再就職支援を手掛けていた。当時はドライバー派遣が多かった。ある時、派遣先の介護施設から「ヘルパーが足りない」と相談されたことがきっかけとなり、ヘルパー派遣を始めることとなった。私は2002年に親会社に入社、2008年からニッソーネットに出向、専務を経て2012年に社長へ就任した。

Q.当社では、どのような役割を担ってきたのか？

ニッソーネットは1999年に設立され、2008年に私が出向した当時は、30〜40名ほどの従業員が在籍していた。当時は、若手社員を中心に体育会系の雰囲気が強かった。利益は十分に出ていたため、親会社の干渉はほとんどなく、経営から営業まで我流でやっている印象を受けた。そこで私は、あらゆるオペレーションを仕組み化する改革を推し進めた。

まず変えたのは、給与計算だ。給与計算は派遣会社で最も面倒な業務なのだが、当時はエクセルを使ってアナログな方法で給与計算を行っていた。私は、給与計算をデジタル化する仕組みを確立し、管理部門の業務負荷を大幅に軽減することに成功した。それ以降も、営業部門の役割分担や業務フローの見直しなど、社内の業務改革を進めていった。

Q.現在の事業内容、事業展開の状況は？

当社の事業は大きく2つあり、前期の売上46億円のうち、売上の90％を占める「人材サービス事業」、残り10％を占める「教育・研修事業」を手掛けている。

「人材サービス事業」は、介護施設、保育施設に特化した人材派遣・人材紹介を行っている。70〜80％が介護ヘルパーの派遣、残り20〜30％が保育士の派遣という内訳だ。求職者の集客は、当社が運営している求人サイトからの流入が50%以上を占めている。事業エリアは関西だけでなく、全国に広がっており、売上の半分以上は関東を中心に関西圏以外となっている。

一方、「教育・研修事業」は、介護・福祉の資格取得支援を行う「ほっと倶楽部」を運営しており、現在は関東・関西エリアを中心に提携校を含め17校展開している。

Q.どのような理念・想いで事業をやっているのか？

「福祉業界に関わるすべての人に満足を。」という理念を掲げ、福祉業界に多くの人を送り出すことを使命としている。私は福祉業界と関わるようになり、「福祉業界で働く人々がなぜこんなにも不満足なのだろう？」という疑問を抱くようになった。他の業界では、従業員が自らの仕事にやりがいや誇りを持ちながら、顧客満足を追求しているような企業は少なくない。しかしながら、福祉業界では、働き手もサービスの受け手もみな、不平不満を抱いている場合が多く、福祉業界は歴史が浅いこともありまだまだ未成熟な部分が多いと感じている。

Q.そのような介護・福祉業界を、どのように変えていこうとしているのか？

未成熟な部分が多い介護・福祉業界を変えていくにあたり、私個人が考える「福祉」という言葉の概念は「福祉＝社会の一部の弱者をみんなで協力して助け合っていく」という認識だ。しかしながら、少子高齢化が進み、介護、保育サービスの提供を希望する人が大幅に増え、福祉はもはや一部の弱者のためのものではなく、万人に必要なサービス業となっている。サービス業である以上、顧客満足の最大化を追求していくのは当然のことだ。

それでは、どうすれば福祉業界の顧客満足を最大化できるのか。一つは、人材が不足している現状に対し、人材を十分に送り出すこと。二つ目は、知識・技術のある人材を育て、働く人の価値を高めること。三つ目は、怪我や事故などネガティブなことばかりがニュースになるのではなく、やりがいや誇りを持って働いている人の姿や福祉サービスを提供されたことで喜んでもらっている人たちの声など客観的な情報を発信していくことが必要だと考えている。「介護・福祉の仕事＝きつくて給料が安い」という負のイメージを払拭すべく、PRにも積極的に取り組んでいきたい。

Q.人材派遣会社としての強みは？

介護・保育業界に特化した人材派遣サービスを主力としながら、教育研修サービスも提供していることは、最大の強みである。介護・福祉業界において、人材派遣と教育研修を一社で手がける事業者は他に見当たらない。これにより、当社の派遣社員は、原則無料で当社の研修を受講できるというメリットがある。特に介護施設から有資格者の派遣を求められた場合に、「まずは無資格者として働き、その期間中に資格取得していただく」という提案を行うこともできる。このような強みがあるために、未経験者も介護・福祉業界に呼び込むことができる。実際、当社の派遣社員のうち約30％は無資格の方であり、派遣社員として働きながら、資格取得に向けて勉強している方がたくさんいる。

Q.今後、市場環境はどう変化し、それにどのように対応するか？

介護業界では、今後スクラップ＆ビルドが進み、業界再編が進むことになる。当社としては、堅実的な経営をしている施設事業者に対し、どのような支援ができるかということを常に模索し、実行していく。人材面における課題解決だけでなく、プラスαの価値提供を追求していきたい。

保育業界は、実質的に民間開放されていないため、働く人の処遇改善を行っていくことが重要だ。保育業界も大手事業者に働き手が集中している。また、園同士の人材獲得競争でなく、都道府県単位の人材獲得競争へとシフトしており、今後はさらに苛烈となるだろう。そのため、派遣社員の残業代をしっかりつけるなど、労務管理を徹底し、保育業界で働く人たちの処遇改善に尽力したい。

Q.今後のビジョンは？

団塊の世代が75歳の後期高齢者となる2025年をピークに、そこから15〜20年が福祉業界のボリュームゾーンとなる。その後は、市場はなだらかに縮小していく。そのため、2040年ごろまでに別領域で事業の柱を確立しておかなければ、企業として生き残っていくことが難しくなるだろう。これまでは、人的リソースが不足していたため、新規事業に力を割けなかったが、本業が好調である今のうちに、新しい事業の種まきを進めていきたい。

新規事業の方向性としては、当社が有するリソースやノウハウを横展開することを考えている。具体的には、当社の強みであるWEBマーケティングを武器に、外販の獲得や、WEBサービスの立ち上げを行ったり、人材派遣サービスにおいて職種を横展開していくことなどを考えている。

Q.今後の課題は？

私個人を含めて目標達成に対する意識が弱いと感じる。一般企業であれば、達成度100％、120％を目指すのが当たり前だが、当社は達成度95％でも満足してしまうところがある。ただ、顧客満足の最大化こそが本当の目的であり、それを追求していけば付随して目標は達成されるものだと考えている。また、社歴の浅い社員が増えてきているので、今後は人材育成にも力を入れていきたい。

Q.求める人物像は？

人柄・人物面が良い方が大前提としてあるが、その上で3つの条件がある。「フットワークが軽いこと」、「指示待ち人間でなく能動的に動けること」、「論理的に考えられること」の3つだ。3つの条件は全て揃っている必要はなく、いずれか一つでも卓越しているような方を、ぜひ採用したい。

Q.当社で働く魅力は？

第一に、慢性的に人手が不足している福祉業界に対して、人材を供給し、日本社会を支えていくという、社会的貢献度の大きい仕事に携わることができること。第二に、人材ビジネスはシンプルなビジネスモデルである一方、ひとつひとつのプロセスは奥深いのだが、当社ではKPI管理を含め、システマチックに業務を進められるフェーズにあること。第三に、社員が働きやすい環境づくりに力を入れていること。現在21時に完全退社としているが、それをさらに前倒し、残業時間を削減していきたい。

Q.人材育成をどのように行っているか？

労働時間を削減する一方、短時間で同じ成果が求められるため、社員の能力向上のスピードを速めていく必要がある。そのための人材育成には力を入れている。当社は異業種・営業未経験からの採用が多いため、入社1・2年目に人材派遣の営業マンとしての心構え、スキルを身につける即戦力研修を実施している。また、中間管理職に対しては、年間プログラムを組んで毎月研修を実施している。今年からは研修テーマをPDCAスキルに絞り込み、実務を通じて、PDCAをいかに回していくべきかという社内研修を、外部講師を招いて行っている。