メーカー・物流機能を強みとし、海外展開も見据える「鉄の商社」
株式会社アイ・テック 代表取締役社長 大畑 大輔 様
Q.33歳で年商600億円企業の社長に就任された。率直なお気持ちは?
アイ・テックに入社して、現場を1年経験し、2年目からは営業へ移った。社長就任にあたり、気負いすることはなかったが、やはりプレッシャーが全くなかったとは言えない。グループ全体で700名近い社員とその家族の生活があり、それは経営者である私の一挙手一投足にかかっている。現場経験時代にお世話になった同期や営業マネージャーにも相談し、このような仲間がいればやっていけると思い、社長を引き受けた。
Q.後継者としての苦労や大変さは?
創業者と比較されること。ただ、アイ・テックの場合、前社長は創業者でもある祖父にあたり、生まれが50年も違うため、比較の仕様がない。私はポジティブ思考なので、比較されても仕方のないことだと割り切っている。創業者が一代で事業基盤を確立したので、私の代で何をすべきかと悩み、祖父に相談したこともあったが、「時代の流れに乗るように事業を展開すれば良い」とアドバイスを受けた。
Q.事業内容、強みは?
建築用の鋼材をメーカーから一括購入し、全国3000社近くの顧客に対して供給している。鐡の商社(流通業)として主力であるH形鋼の取り扱いは日本一である。顧客先は、ゼネコンや鉄工所になるが、当社では3つの販売法がある。一つは直販するパターン、二つ目はゼネコンから工事を請け負い、鉄工所へ鋼材を納めるパターン、三つ目はゼネコンから鉄工所へ鋼材を紹介してもらうパターンがある。
また、自社で運送部隊を持っているため、日本一の在庫量を生かし、顧客に対して即納ができることは強みだ。加えて、加工機能も有しており、加工技術は全国でもトップクラスと自負している。
収益割合では、鋼材の流通が全体の6〜7割ほど、残りの3〜4割は商社鉄骨ビジネスとなっている。商社鉄骨ビジネスとは、ゼネコンから工事を請け負い、鉄工所への材料の手配から供給までをワンストップで引き受ける事業のこと。当社が介在することで、ゼネコンは当社とだけコミュニケーションを取れば、十数社の鉄工所と取引できるというメリットがある。また、グループ会社に鉄工所を保有していることで、ゼネコンに対して臨機応変な対応ができることも強みになっている。
Q.今後の注力事業は?
短期的に見ると、工事請負を行う商社鉄骨が大きい。5年タームで見ると、オリンピック関連工事が相次ぎ、オリンピック後にも暫くは案件が入ってくるため、まだ成長余地があると考えている。中・長期的には、本業である鋼材の流通を伸ばしていきたい。
Q.どのような理念・想いで事業をやっているのか?
社員に対しては、安心して働ける会社であること、また、社員の周りの方に入社したいと思ってもらえるような会社づくりを大切にしている。そのために、なるべく多くの社員と顔合わせできるよう、年に1回は24拠点を回っている。また、会社全体で横の繋がりを持ち、現場・営業・事務の社員同士が人材交流できるよう、3年毎の海外研修旅行や毎年のスキーツアーなどを実施している。今後は、福利厚生にも力を入れていきたい。
Q.どのような企業風土か?
社員同士明るい雰囲気だと思う。また、最近は、支店長なども若手社員へバトンタッチするケースが増えるなど、若手が活躍する機会が広がっている。また、鐡の商社というと、BtoBでお堅い仕事と捉えられることも多いが、近年ではスカイツリーやUSJのハリーポッターの建設に関わった実績をアピールするなど、鐡の商社としての価値をわかりやすく世の中に伝えていこうという意識を持っている。
Q.競争優位性は?
大手商社、鉄鋼メーカー系の商社と同じように、メーカーから一括で直接仕入れることでコストを抑えていること。また、清水・富山・千葉の港(現在福島県相馬市の相馬港は建設中)に保税蔵置場付き倉庫を設備しており、1回で1000〜1500トン以上を運搬できる船での大量輸送が可能になったこと。これにより、仕入れの物流コストを削減し、お客様に還元できるようになった。
要約すると、当社の強みは、メーカーとエンドユーザーを直接繋げることができ、かつ、ニーズがあれば加工にも対応できる鐡の商社であること。また、将来的には、さらに強みを磨いていき、「アイ・テックに頼めばビルが一棟建つ」というような、地域に根付いた小さなゼネコンというポジションも確立したい。
Q.業界を取り巻く外部環境の脅威は?
建築における鉄の需要は、バブルの頃は1200万トンだったが、現在では500万トンにまで縮小している。今後も減少していく一方で、鉄工所の数も半減している。また近年、大手商社がM&Aにより地場の問屋を買収する動きが加速しており、全国規模で小回りの利くサポート体制を確立しつつあることも大きな脅威だ。当社は現在、国内500万トンのうち、10%強に当たる60万トンのシェアを保有しているが、首都圏での案件を獲得することによりシェアアップを図っていきたい。
また、これまで、鉄鉱石・石炭の仕入れは日本が主導権を握っていたが、この十年で中国の鉄鋼生産量が何倍にも膨れ上がっており、また、インドネシアやベトナムなどのASEAN諸国だけで鉄の7割近くを生産しているような状況になっているため、今後は海外への展開を強化していく必要がある。
Q.海外を強化する上での課題は?
40~50代の社員からすると海外は敷居が高いと感じてしまう。その先入観を解消していきたい。経営戦略の観点から、どの国の需要が伸びるのか、どの国に進出すべきか、ということをここ数年検討している。現地に進出した際、日系企業の案件を取ってくることが一般的だと思うが、そうではなく、現地企業の案件を日系企業であるアイ・テックが取っていきたい。インドネシアやベトナム、産油国などを有望市場と捉えており、特に、溶接が不要でボルトで締めるだけで組み立てる当社のウェブクランプ工法の技術を広めていきたい。
Q.求める人物像は?
部活で例えると、選手ではなく、一軍のマネージャーを求めている。部活を会社に例えると監督は社長で、選手は営業だが、マネージャーは全体を見て、監督と選手の橋渡しをする中間管理職のような存在だ。マネージャーの感覚を持つ人は、気が利き、細かくチェックできる人が多く、加えて広い視野でものごとを見ることもできるため、将来的には経営幹部になって欲しいと考えている。
その一方で、一軍の選手になれる営業人材も必要だ。お客様からしつこいと言われるぐらいの営業マンが欲しい。最近の営業マンは、一回断られると行かなくなってしまうが、「人から好かれるしつこさ」を持っている営業マンは強い。失敗を恐れず、ガンガン外に出て、胸を張って自分をアピールできる人を採用したい。
Q.人材育成における課題は?
丁寧に指導できる先輩社員があまりいない。業界の特性上、「俺の背中を見て学べ」というスタンスの社員が多い。やはり、20年の経験で培ったノウハウを後輩に教えようとしても、ノウハウが暗黙知化しているため教え方が分からず、部下に伝えていくことが難しい。売れる人はいても、それを教える人がいないという状況。それではいけないので、先輩社員の持っているノウハウを言語化したり、フローに落とし込んだりという仕組み化を進めている。また、中堅社員に向けたセミナー等も取り入れ人材育成を強化したい。
Q.経営者としての強みは?
気さくに誰とでも仲良くできる。大手商社の社長クラスともお付き合いする機会がある。あとは、前向きであるところ。長く考え込んだとしても一番初めに出した案がベストであることが多いので、悩みすぎないようにしている。決断が早いところは自分の強みだと捉えている。
会社概要
会社名 | 株式会社アイ・テック |
---|---|
事業内容 | ・一般鋼材、鋼板、鋼管、特殊鋼、磨シャフト、軽量形鋼、熔接棒、鉄鋼二次製品の加工及び販売 ・土木・建築工事業 ・倉庫業 ・鋼材および鉄鋼製品の輸出入業務 |
代表者名 | 大畑 大輔 |
代表プロフィール | 2004年富士常葉(現常葉)大流経卒、アイ・テック入社。2007年取締役。2014年副社長。2015年代表取締役社長へ就任。 |
沿革 | 1923年 「大畑保商店」個人創業 1960年 「清水シャーリング株式会社」を設立 1989年 CIを導入「株式会社アイ・テック」に商号変更 1994年 株式の店頭登録銘柄として株式公開 (現:東証ジャスダック) 2013年 「ウェブクランプ工法」一般財団法人日本建築センターの評定を受ける |
本社所在地 | 〒424-0901 静岡県静岡市清水区三保387番地7 |
URL | http://www.itec-c.co.jp/ |