一流大工を養成し内製化、米国進出も狙う高学歴大工集団

株式会社平成建設 代表取締役 秋元 久雄 様

Q.どのような想いで事業をやっているのか?

世の中には、我が強くてお金ばかり貯めがちな人間がいる。だが、どれだけお金を貯めても、その人は人間的に見ると「上の下」に見えてしまう。そういう人間を見てきて感じたのは、お金を稼ぎ貯めることを人生の目的にすると何も面白くないということ。俯瞰的に見て、どのような人が人間的にみて上にいるのかを考えてみると、不思議といつまでたっても仕事を続けられる人がいる。常に前だけを見据えている人。特に芸術家に多いと感じる。区切りがなく辞めることがない。このように、社会のために仕事を続けられる人は「上の中」の人間だ。それでは、「上の上」の人というのは、どういう人かと言えば、それは多くの人材を育て上げた人のこと。育成に関わった人々の未来を創造することに貢献している。自分も「上の上」に到達できればと最高だと感じている。みんな自分が主人公になりたがるが、そういうことではない。この考え方は、後藤新平という明治時代に活躍した医師・官僚・政治家で台湾総督府民生長官や初代満鉄総裁、大臣、都知事などを歴任した方の名言によるものだが、この名言を知ったときに私はハッとさせられ、考えを改めた。

また、現代社会は競争が激化したトーナメント形式のようであり、勝者は一人、敗者多数ということがいろいろな場面で見受けられる。トーナメント形式だから人は失敗することを恐れるようになっている。それならば、トーナメント戦のような競争ではなく、リーグ戦のような競争環境を提供することで、失敗を恐れず総合的に評価される世の中を実現できるのではないかという想いを持って、事業を行っている。

Q.「高学歴大工集団」と言われているが?

最終的に一流の大工に育ってくれるならば、学歴は関係ない。大工は頭脳がいる仕事なために、結果として出身大学も高学歴になっただけのこと。一流の学歴を持つ学生を求めている訳ではない。

Q.なぜ一流の大工を育成することができるのか?他社と何が違うのか?

それは、当社が大工を育てるノウハウを持っているから。当社との違いは、他社は大工を育てる兄弟子がいないということ。親子ほど年齢の離れた一人親方に若い大工志望者を預けても無理。

当社がどのように初心者から一流の大工に育て上げているのかというと、大工のレベルにあった年齢の近い教育担当をつけ、切磋琢磨する。そして、それぞれの大工の成長に合わせた環境を与えていく。当社も、教育ノウハウを確立するまでに多くの年月と失敗を積み重ねてきた。それは、一年や二年チャレンジするだけで真似できるようなものではない。

Q.どのような資質を持った人が一流の大工として成長する人材なのか?

一概には言えない。色々タイプがある。本来の大工は技能から施工監督、設計まで幅が広く、全方位的に優れている人は少ない。そのため、大工の職能を総合的にそつなくこなすことができる人材も大工としては一流であり、特定の職能がずば抜けて優秀な大工もまた一流と呼べる世界。一流の大工に求められる素質があるとすれば、最後まで継続でき、大工という仕事が好きな人だ。

Q.建設業界は離職率が高いが、平成建設はどうか?

業界を職種別にみると、とくに現場の離職率はとても高い。それに比べると当社の大工や基礎工事を行う多能工の離職率は圧倒的に低い方だが、当社でも離職する人は一定数存在する。設計士やコンサルタントがあらゆる事務所を渡り歩くように、当社で得られる経験を魅力に感じ、将来的に辞めることを前提として入社する社員もいるかもしれない。この状況については、当社だけが特別だとは思っていない。

Q.売上構成比は?

マンション40%、注文住宅40%、リフォーム・その他が20%となっている。賃貸マンションも注文住宅も主な顧客層は、共通して富裕層であるため、今後、富裕層が求めている事業の比率が自然と大きくなっていくと考えている。また、スクラップ・アンド・ビルドの時代から徐々に変化していることは事実であり、住宅の耐久性も向上しているので、大規模なリフォーム案件も一層増えていくだろう。

Q.富裕層向けの注文住宅、建築費用のボリュームゾーンは?

当社の場合、坪単価は70万〜150万円、建築費用は3000万〜2億円がボリュームゾーンとなっている。ハウスメーカーが予算的、または技術的に対応できない案件が当社に寄せられること多い。

Q.富裕層はどうやって平成建設を知るのか?

富裕層が当社を知るきっかけは、多岐に渡っている。知り合いからの口コミ、マスメディアからの認知を経て、賃貸マンションや住宅を建てるタイミングと合致した時に声がかかるケースが多い。

Q.今後のビジョンは?

5年後、10年後には、大工の数は現在の250名から400〜500名には増えているはず。職人の数が増えれば増えるほど、15〜20年以上の職歴を持つベテラン大工を相当数ストックすることができる。この人材を武器に多種多様なニーズに対応することが可能になる。当然、他地域への進出や海外展開にも対応できる。現在は、静岡・神奈川・東京で事業を展開しているが、今後、関西に進出する計画ある。大都市に進出することで富裕層との接点も増えていく。加えて、当社のライバルになるような企業がなければ、一人勝ちすることができる。

また、海外進出の展望については、良質な木材を調達でき、かつ日本文化が好きな富裕層が多い地域であるアメリカ市場を集中的に狙っていく。アメリカでも日本家屋の需要は大いにあるという感触をつかんでいる。

Q.アメリカ市場参入における課題は?

大工という職種がアメリカでは理解されず、単なる海外からのワーカーと認識された場合、現地の行政から必ずしも歓迎されていないこと。その解決策としては、日本で仮組みを行い、現地では組み立てるだけにするなどの工夫が必要だ。また、煩雑な建築確認手続きや訴訟の可能性を考えると、当社が単独で海外展開するのはリスクが大きく、現地のパートナーと組む必要があると考えている。

Q.今後の課題は?

幹部の育成。当社は、あらゆる職種の人材を抱えており、大工職人を内製していることはもとより、一般的な建設会社から見るとタブーとされるほど複雑な組織体制になっている。下手をすると、営業、設計、現場監督、大工職人それぞれ衝突しかねないほど、あらゆる職種が入り乱れている。同業他社が真似をしたがらないのは、このような複雑な組織体制を敷いているから。この組織体制が当社の強みでもあるが、同時にマネジメントしづらく、幹部育成が難しいことは弱みでもある。

Q.あまり積極的なPRを行っていないように感じるが、その意図は?

職人が育った分しか受注できないため。育ちもしない大工に能力以上の仕事を与えることでトラブルになることが目に見えている。程よい忙しさをキープし続けることが重要であり、PRや広告宣伝を優先しすぎるとお客様の期待値を必要以上に引き上げしてしまったり、対応しきれないほど多くの案件が舞い込んでしまうリスクがある。

Q.経営者としての弱みは?

私自身、社長業が長いため、社長後継者、次世代の経営幹部を目指す人材が育ちにくい、かつ社長後継者の席を巡り競争する環境が十分ではないと感じている。ただ、バトンタッチする社長後継者は必要であり、そのために私はなるべく表に出過ぎず、社員に任せることを意識している。

会社概要

会社名株式会社平成建設
事業内容・賃貸マンション、注文住宅、商業施設、病院等建築全般の営業、設計・監理、施工管理、在来工法による木造やRC・S造等の直接施工
・リフォーム事業
・不動産事業
代表者名秋元 久雄
代表プロフィール1948年、静岡県伊豆市生まれ。静岡県立韮山高校卒業後に自衛隊体育学校に入校しウェイトリフティング選手としてオリンピック出場を目指す。その後、大手デベロッパー、ハウスメーカー、地元ゼネコンを経て、1989年に平成建設を創業。
沿革平成元年 株式会社平成建設 設立
平成13年 厚木支店 開設
平成26年 世田谷支店 開設
本社所在地〒410-0022
静岡県沼津市大岡1540-1
URLhttps://www.heiseikensetu.co.jp/