ネット通販で躍進する焼魚・煮魚の冷凍食品メーカー

小野食品株式会社 代表取締役 小野 昭男 様

Q.震災で新工場を失い、大変厳しい状況だったと想像するが、震災後の率直なお気持ちは?

震災当日は東京にいて、釜石にいる社員と2日間連絡がとれなかった。震災から5日後に釜石に戻り、そこで初めて損害状況を把握することができた。新工場を含め固定資産の損害額は4億円にも上った。通販事業が伸びてきた矢先の震災で工場を失い、ものすごく悔しかった。しかし、震災から1週間後には、前に進むことしか考えていなかった。そのきっかけは、お客様からたくさん応援のお手紙をいただいたこと。また、この会社で仕事をしたいと従業員も会社の再建に向けてやる気満々だった。本社工場の一つは残っていた。再建に向けて新たな借り入れをしなければならなかったが、やるしかないという想いだった。

Q.震災後、どのような困難が待ち受けていたのか?

震災によって4億円の損害を受け、震災後の3月末に新工場建設費の支払い期限が迫っていた。社内では「支払いを延期させてもらおう」という話も出たが、私は「支払いだけは絶対に延期してはいけない。そんなことしたら新たな設備購入ができなくなる。絶対に期限通りに支払う」と決めた。また、震災前、売上の7割を業務用が占めていたが、震災2ヶ月経ってもその注文が増えなかった。お客様が何を考えているのかを聞くために、全国の主要取引先20数社を回って話を聞きに行ったところ、震災でうちの稼働が止まっている間に、同業他社に取って代わられていたことが分かった。

Q.震災後、経営再建に向けて、どのような決断を行ったのか?

選択と集中を進める必要があった。当時、売上の7割を占めていた業務用は、主力事業ではあったが、価格のコントロールが難しいという難点があった。また、震災後、取引先からの注文がなくなり、業務用は難しいと判断した。そこで通販事業へのシフトを決断した。その結果、今では通販事業が売上の7割を占める主力事業へと成長した。また、学校や病院施設との取引については、当社製品の味と品質が高く評価され、震災以降も継続してお付き合い頂いている。

Q.通販事業への参入には、どのような苦労があり、それをどう克服したのか?

通販事業は震災発生の6年ほど前から開始したが、当時は、通販事業を展開するために、どのような仕組みを作ればいいのか、どのように広げていけばいいのか、全く分からなかった。暗中模索ではあったが、通販サイトを立ち上げ、ブログ等で紹介していったところ、少しずつお客様が付いてきてくれた。すると、社員から面白いお客様がいることを聞いた。それは、毎月5000円分の商品を当社で見つくろい、一人暮らしのお母様にサバ味噌煮を含め、「三陸おのや」のお魚メニューを組み合わせて送って欲しいというお客様だった。それを聞いて、当社の魚料理を継続的に買い続けてくださるリピーターの存在に気づくことができた。それがきっかけとなり、一人暮らしの若者や高齢者に対して、毎月定期的に宅配できるようなサービスを確立しようと考えた。

また、過去に通っていた大前研一さんの経営塾で知り合った方から、「東京や全国にビジネスを広げていくつもりならば、まずは地元でテストマーケティングをしてはどうか」とアドバイスをもらった。そこで、地元のお客様向けに、工場直売所を設け、週末を返上して社員と共に販売した。当初は、新たな取り組みに戸惑った社員もいたが、直売会の回を重ねるごとに、お客様に直接商品を届けるやりがいとファンが増えていく喜びを感じるようになっていった。直売会での経験を通して、調理を面倒に感じる方や価格よりも品質重視の方にこそ、当社の製品はマッチするということが分かった。また、地元釜石で売れるならば、生活水準の高い都会でもお客様を開拓できるのではないかという自信もついた。

Q.通販事業で上手くいっている点、苦労されている点は?

震災前、お客様が1000人から5000人に増えていたが、必ずしも利益が出ていない状況だった。震災後、中小企業基盤整備機構から紹介いただいたマーケティングと財務の専門家のサポートのもと、通販事業の課題を洗い出していったところ、月によって収益にばらつきがあることが分かった。以前は、多少利益率が低くとも、まずは自社のファンになって頂き、リピートしていただくことが重要と考えていた。だが、今一度お客様の声を調べてみてはどうかとアドバイスをいただいた。

そこで、3000名のお客様にアンケート調査を行い、「過去4ヶ月間の中で気に入った商品」を聞き出した。アンケートの分析結果をみて、自分の仮説とは真逆の結果だったことにハッとした。それは、お客様を喜ばせられると自信のあった原価率の高い商品が、必ずしもお客様から評価されていなかったからだ。その時、自分は大きな勘違いをしていたことに気づき、原価率を一定にしながらも、お客様に喜んでいただける商品メニューを企画することができるはずだと考えるようになった。その後、何十回も試作を繰り返しながら、お客様に喜んでいただける商品を開発し、収益性と顧客満足度の向上を両立できるようになった。

通販事業が成長できたのは、お客様や専門家の声からヒントを得て、社員一丸となって改善を繰り返し続けてこられたからだと思う。

Q.顧客の声を集める仕組みはあるのか?

お客様の声を集める最も大きな仕組みは、配達する商品に同封しているハガキで、毎月500通以上の返信が届く。お客様から届いた声から、課題を洗い出していく。この分析を長年続けてきたことが、今では大きな財産となっている。また、ハガキを出して下さったお客様には、感謝の証として、一通一通丁寧にお返事を書いている。

もう一つは、コールセンターで退会時に退会理由や感想をさりげなく聞いていること。当社のサービスを退会したい場合には、コールセンターにご一報いただくことにしている。その際に、退会の理由などをヒアリングさせて頂き、改善や新メニューの開発に活かしている。

大まかにまとめると、ハガキでは当社のどこに価値を頂けているのかを分析し、コールセンターでは不満な点や退会理由を分析している。また、時々お客様アンケートを実施し、顧客の属性(年齢や性別など)も分析している。

Q.今後の課題は?

一つは、当社のメインターゲットとなっている、60~70代の比較的裕福な方のライフスタイルに合わせた商品企画を磨いていきたい。「普段着のご馳走」として、お魚料理を手軽に美味しく食べていただくために事業を行っているので、例えば、パンやワインにマッチするお魚料理を用意したり、煮魚や焼き魚に飽きた方に対しては、具沢山のスープを一人鍋のように手軽に楽しんで頂いたり、忙しい主婦に喜んでいただける朝食や弁当の一品となるようなメニューを用意したりと、多様なライフスタイルに合った商品メニューの充実を図り、多くのお客様に喜んでいただけるようなお魚料理ブランドを確立していきたい。

二つ目は、当社と同じターゲット顧客に事業展開している企業とのコラボなど、ライフスタイルに合わせた多種多様な商品メニューをより多くのお客様に届けられるよう、BtoBでも柱を作っていきたい。

三つ目には、日本国内だけでなく、当社の商品をアジアで展開していきたい。実際に、シンガポール、香港ではすでにテスト販売を行っている。

四つ目は、販路開拓で苦しんでいる三陸の生産者をうまく巻き込み、当社が新商品の企画から販売までを手掛けることで、地域全体の活性化を狙っていきたい。そうすることで、三陸のあらゆる海の幸を美味しい形でお届けでき、生産者・消費者の双方に喜んでもらえるプラットフォームを構築することができる。それを世界に広めていくのが自分の夢だ。

Q.採用について。どういう人材を求めているか?

まずは、「美味しいお魚料理を多くの人にお届けしたい!」という理念に共感してくれる人だ。また、地方の小さな会社だけど、全国・世界に通用する会社を目指していくことに気概を持てる人を採用していきたい。私の経験上、夢を持ちチャレンジし続けている人は、当社にマッチすると思う。

Q.経営者としてのご自身の強みは?

自分がやるべきことを、マインドマップで客観的に書き出すようにしている。自分の頭に描いたものを書き出して、優先順位を決める。そのように、戦略的に自分がやるべきことを描け、意思決定できるのは強みかもしれない。

また、外部のプロフェッショナルをうまく巻き込み、さらなる会社の成長を実現していくことも得意だと感じている。

Q.そのような戦略的な思考を、どのようにして習得したのか?

一つには、大前研一さんの経営塾に参加して学んだ。そこでは、ビジネス企画を練り、塾生の前でプレゼンし理解してもらうための場があり、塾生同士で競争するうちに身についていった。もう一つは、マーケティング、IT、財務などの面で、社外の参謀からも指導を受けている。

Q.外部のプロフェッショナルを活用して上手くいっている。何か秘訣はあるのか?

社外の参謀に対しても、オープンになる、隠し事をしないことが大切だ。熱意、想いを伝えて、自分のファンになってもらう。そうすることで、より良い指導を受けることができる。私の経験上、相手の気持ちを高められないと、上手くいかない。

会社概要

会社名小野食品株式会社
事業内容・調理冷凍食品の製造、販売(冷凍食品焼魚・煮魚、レトルト食品、チルド食品)
・食品・三陸海の幸をお届けする通信販売「三陸おのや」の運営
代表者名小野 昭男
代表プロフィール1956年、岩手県釜石市出身。鹿児島大学水産学部卒業後、ジャスコに勤務。1982年、父の死に伴い釜石に戻り家業の水産加工業を継ぐ。1988年に法人化し小野食品を設立、代表取締役に就任。
沿革昭和63年 当社創業
平成16年 「三陸おのや」事業 開始
平成21年 「三陸おのや」事業 全国展開
平成28年 大槌工場稼働開始
平成28年 東京営業所開設
本社所在地〒026-0304
岩手県釜石市両石町4-24-7
年商22億7000万円(2016年3月)
従業員数106名
URLhttp://www.onofoods.com/