モールド・エンジニアリングで「金型業界の風雲児」を目指す

株式会社IBUKI 代表取締役 松本 晋一 様

Q.企業経営において大切にしていることは?

昨今、グローバル化が進み、地球全体で共存・競争が激化していく中で、一番の武器になるものが「〇〇らしさ」だと考えている。この「らしさ」というのは、歴史の積み重ねによって形成されるため、簡単に他者が真似できるようなものではなく、それによって参入障壁を高くすることができる。京都の1000年を1年で買うことができないように、永い年月をかけ培われてきた「らしさ」が持つ大きな価値を認識し、いかに世の中に伝えていくべきなのかということを考えることが、これからの社会では益々重要になると考えている。

Q.O2グループとして安田製作所(現・IBUKI)を買収した。その意図は?

誰かがやらなくてはいけないという「意義」が全てだった。一般的には、成長産業に投資しがちだが、私は衰退産業の一つとされる金型業界を救いたかった。成長産業に投資するよりも、救いの手を差し出すべき企業に率先して投資することで多くの人々を幸せにできると考えている。まさに安田製作所は、私が手を差し伸べなければならないと感じた企業であり、経営再建に乗り出すことに決めた。

また、倒産寸前だった安田製作所を再建させることができれば、この事実が社会に対して大きなメッセージを発信できると考えた。伸び盛りの企業をさらに伸ばすことは誰にでも出来る。私が伝えたいメッセージの一つは、「物を作っても売れない時代に、どのような経営をすれば、金型という衰退業界の企業を再生させられるのか」ということだ。IBUKIがそのお手本となりたい。

もう一つのメッセージは、現代社会は常に成長を目指しているが、犠牲を出してでも過度に成長していくことに、本当に意味があるのかということを問いたい。犠牲になったところにも救いの手を差し伸べられるような社会へ変革していくために、口で言うだけでなく、まず私自身が行動・結果で示すことにより、そのメッセージを多くの人々に伝えたい。

金型業界というのは、虐げられてきた産業の一つであるからこそ、私はIBUKIを通じて、金型業界全体を再び盛り上げていきたい。金型業界は小さいながらも、産業の足腰と言われ非常に重要な役割を担っている。確かに、金型業界自体がなくなっても日本のGDPには大きな影響を与えないかも知れないが、金型産業は、日本のものづくり文化を根底から支えている。このように、金型産業の重要性を口で説明したところで社会が変わる訳ではないが、私が行動や結果で証明することにより、私の考えに賛同する人を増やしたい。そのような「意義」によって安田製作所の買収を決断した。

Q.IBUKIをどのように変えていくのか?

まず初めに、自立して企業経営のできる体質にしていくこと。金型業界は下請けが主流のため、クライアントの言うことが絶対であり、会社の経営自体を握られているも同然であった。実際に、安田製作所も8〜9割が某大手メーカーの案件であり、同社が不景気になった時は倒産寸前の大打撃を受けた。このように、金型業界が外部環境に振り回されないようにするためには、「脱・下請け」を目指すしかない。しかし、「脱・下請け」と口先だけで伝えても、金型企業には具体的な方法が分からないため、私たちO2グループがお手本となって「脱・下請け」の方向性を提示し、そのために必要なアクションを実行していく。そうすることにより、私たちが「脱・下請け」を目指す金型企業の道しるべとなっていきたい。

Q.「脱・下請け」をどのように進めるのか?

「脱・下請け」を実現する方法の一つに、外部と連携することにより新しい価値を生み出す「オープン・イノベーション」があると考えている。一つの価値を作り出すために自社だけでなんとかしようとする自前主義が日本企業には多く見られ、金型企業でもその傾向は顕著である。どんな会社にも強みがあり、一つの強みだけでは価値にならないが、複数社が互いの強みを生かし合えば、世界初の新しい価値を創造することができる。これがオープン・イノベーションの原型だ。このような「脱・下請け」の方法を、IBUKIがお手本となって示すことで、金型産業が変わる起爆剤となっていきたい。

Q.「脱・下請け」に向けて、IBUKIが具体的に実践していることは?

一つは自社ブランドを持つこと。金型業界では、メーカーのように社名やブランド名を大々的に謳うことはないが、IBUKIが手がける金型には刻印を付け製造することで、当社の社名が残るようにしている。また、メーカーと共同で自社ブランドを立ち上げた。オリジナル家電ブランドで有名な「amadana(アマダナ)」と協業し、プラスチック製のワイングラスを開発し、IBUKIが製品の金型を手がけた。プラスチック製でありながら、一見するとガラス製にも見て取れるワイングラスはパーティー会場やキャンプなどで大好評だ。

もう一つは、オープン・イノベーションに積極的に取り組んでいる。メーカーの下請け製造から脱却するためには、本来メーカーのみが担っていた「設計」の領域も手がけていく必要がある。つまり、メーカーの要望ありきで部品を作る受け身の企業体質から、メーカーと同じ目線に立ち機能を提案・設計できる企業体質になることが「脱・下請け」の要諦だと考えている。具体例として、IBUKIの強みは微細加工技術にあったが、技術力だけでは世界初と呼べるだけのインパクトを生み出せずにいた。そこで、外部との協業を通じて、自動車分野での活用が期待できる「映り込み防止機能」を開発した。開発にあたり、光学技術に強みを持つIMUZAKと、高分子を研究する山形大学の専門家と連携した。

また、オープン・イノベーションにあたり重要なのは、当事者同士で「相互理解→相互尊重→相互扶助」のステップを順当に踏んでいくことだと考えている。相手のことを知ることで、相手の長所が見え始め、自分には無い部分についてお互い尊敬するようになる。相互尊重の気持ちが芽生えれば、助け合いの精神が生まれる。このステップを踏むことなくして、オープン・イノベーションは成り立たない。

このように、IBUKIは金型企業として自ら「脱・下請け」に向けて行動を起こし、収益につながる成功パターンを確立しつつある。ぜひ、日本全国の金型業界に携わる経営者にもアクションを起こして欲しい。またO2グループでは、IBUKIでの成功体験を生かし、金型企業の脱・下請け支援を手がけていくことで産業全体を盛り上げていきたい。

Q.O2グループとしての今後のビジョンは?

グループ会社や取引先の企業を巻き込んだ、共育(ともいく・きょういく)を目指している。共育とは、「共に人を育て、共に事業を育て、共に企業を育て、良き価値観を社会に育んでいく」こと。

IBUKIでは、21世紀型の製造業の姿を追求し、体現していきたい。現在、世界的な社会課題の一つに、資源の枯渇が挙げられるが、製造業はまさに地球上の有限な資源を消費してものづくり活動を行っている。そして近い将来、製造業がものを作らせてもらえない社会が到来すると考えており、IBUKIでは、そのような状況下に置かれた製造業がどのように生き残りを図ればいいか、社会的な課題を解決するお手本として存在していきたいと考えている。

同じくO2グループの株式会社LIGHTz(ライツ)は、AI (人工知能)による技能継承サービスを提供する会社であり、O2グループが製造業分野で培った「日本らしさ」を農業分野や教育分野に横展開していきたいと考えている。

このように、O2グループは、日本が抱える社会的課題を解決するために、新たに企業を立ち上げ、外部と連携したオープン・イノベーションを巻き起こしていく。O2は、表舞台に出ることはせず、誰かが何かを成し遂げるためのブースターとして、また、社会的課題を解決したい関係者と共に動く「共育屋さん」として貢献していきたい。

Q.採用について。求める人物像は?また、採用した人材に期待する役割や成果は?

O2グループとして共通して求める人物像は、「人間性」に尽きる。当社独自の言葉で言うと、「喜与喜(=他人の喜びを自分の喜びであるかのように思えること)」の考え方を自身の中に持っていることが重要。喜与喜マインドを持った上で、社会のために貢献したいという意欲、スキル、資質が必要となる。そのスキルや資質はグループ会社によって異なる。

IBUKIとして、個別的に求めるスキル・資質は二つある。一つは金型の現場経験が豊富であること。もう一つは、目に見えない技術や材料についての知見・ノウハウを有していること。一般的な金型屋が求めるエンジニア像ではないが、IBUKIが脱・下請けを実現していくために必要なミッシング・パーツを満たしてもらえる人材を求めている。

加えて、ものづくり全体のバリューチェーンから自社の方向性を考え、行動を起こせるマネジメント人材も求めている。M&Aを進めていくにあたり、当社の知らない異なる製法・背景を持った企業や専門家とも付き合っていく必要がある。かつ、脱・下請けを実現するためには、金型を一部分として捉えるのではなく、バリューチェーンから俯瞰的に捉えることが重要。IBUKIが新しい価値を創造していくにあたり、当社が技術・ノウハウを持っていない場合、当該技術を有する企業の買収や提携を検討していくことになる。そのようなアライアンスを推進できる人材は採用していきたい。

Q.今後の課題は?

今後の課題は、IBUKIとしてアライアンス先を開拓していくこと。幸いにも、IBUKIの取り組みがメディアなどで取り上げられる機会が増え、業界内での知名度は上がっている。ここからは、IBUKIの持つ技術力・ノウハウと掛け合わせることで、社会的に大きな価値創造につながる、ユニークな技術を持つ企業との提携を加速すべく、常にアライアンス先は模索している。

 

会社概要

会社名株式会社IBUKI
事業内容・射出成形金型の設計・製造
・各種プラスチック成形品の試作及び量産
・微細な特殊加工の研究開発
・設計者/製造者向け金型・成形に関するノウハウの伝授及び指導
・海外サプライヤー監査及び指導
・海外金型立ち上げ及びメンテナンス
代表者名松本 晋一
代表プロフィール千葉県出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。大手化学メーカーからITベンチャー企業、コンサルティングファームを経て、2004年3月にO2を設立。2014年に前・安田製作所を買収。
沿革昭和8年  創業者・安田角太郎が大崎にて木型の製造販売を個人企業として創業
平成26年 株式会社O2グループの傘下に加わる、資本金を7,800万円に増資
平成27年 社名を株式会社IBUKIへ変更
平成28年 PT SAEAM DAYA INDONESIA社と技術&業務提携を締結
本社所在地〒999-3511
山形県西村山郡河北町谷地字真木160-2
年商8億2000万円(2017年3月)
従業員数50名
URLhttp://www.ibki-inc.com/