日本の就活文化を変える新卒ダイレクト・リクルーティング

株式会社i-plug 代表取締役 中野 智哉 様

Q.どのような理念で、どのような事業を展開しているのか?

当社では、「新卒社員が3年以内に3割辞める状態を解消する」ことを中期的ビジョンに掲げている。入社して3年以内に辞めた場合、キャリアダウンになるケースが多いため、学生はファーストキャリアを真剣に選ぶべきだと考えている。

私たちは、それを実現するために、「OfferBox」というダイレクト・リクルーティングのWEBサービスを展開している。学生がプロフィールを登録・公開すると、企業が学生の情報を閲覧できるようになり、会いたい学生にオファーを送ることができるというサービスだ。学生は無料で利用することができる。企業は1名の採用につき30万円の成功報酬をお支払いいただく完全成果報酬型プランか、1年間の利用料をまとめてお支払いただくパッケージプランのいずれかを選択することができる。

Q.「OfferBox」の価値は?

成功報酬30万円でダイレクト・リクルーティングができるということだ。サービス開始前の顧客ヒアリングで100社中98社から、成功報酬30万円という価格設計に好反応を頂くことができた。これは、破壊的なイノベーションになるだろう。競合も「OfferBox」と類似するサービスを作ろうと思えば作れるはずだが、それをやりきるのはとても難しい。当社が先陣を切って、学生と企業とのミスマッチ解消に貢献していきたい。

Q.企業が学生にオファーできるサービスは他にもあるが、「OfferBox」は何が違うのか?

一つは、学生が登録できるプロフィールの情報量が圧倒的に多いこと。学生は、大手志向かベンチャー志向か、保有スキル、写真・動画、過去のエピソード、適性検査の結果など、様々な内容を登録することができる。それによって、企業は学生のことをかなり詳細に把握することができる。

二つ目は、企業が送付できるオファーの数を制限していること。「OfferBox」では、企業側は同時に最大100名までにしかオファーを送ることができず、学生側も最大15社までとしかやり取りできないという制約を設けている。これは、あまりに多くの学生・企業と会うことは、お互いにとって非効率であり、企業も学生も会うべき相手をある程度厳選した方が良いと考えているからだ。また、企業からのオファーは、学生一人ひとりに対して個別に送らなければならず、一斉送信ができないようになっている。

三つ目は、企業が学生と会う際に、大人数のセミナー形式ではなく、一人ひとりの学生と個別に、もしくは5人以内の少人数でお会い頂けるようにお願いしていること。学生も企業も、お互い真剣に相手と向き合って頂きたいからだ。

Q.現在の就職活動は、何が問題なのか?

「新卒社員が3年以内に3割辞める」という事実は、企業と学生のミスマッチが起きていることに他ならない。ほとんどの学生は必要以上に多くの企業と会い過ぎており、一社当たりとのコミュニケーションが希薄化している。これこそが、ミスマッチが起こる大きな要因だ。このミスマッチを解消するためには、入社前に企業とのコミュニケーションの時間を長くするしかない。一社当たりのコミュニケーション時間を増やすためには、学生側は入社しそうにない会社、企業側は自社に合わない学生と会わないようにする必要がある。

また、学生の持つポテンシャルと企業側の求めるポテンシャルが一致していないことも、ミスマッチの要因だ。企業側は、自社で活躍できる学生を見極めるために、学歴、志望動機、面接官の評価点、コミュニケーション力などの要素を重視し過ぎているが、当社では、将来の活躍を見越したポテンシャルを見極めるためには、パーソナリティ、地頭、カルチャーフィットが重要だと考えている。

Q.「OfferBox」の登録企業数、登録学生数は、どのように推移しているか?

登録企業数は、1年目(2013年):88社、2年目(2014年):376社、3年目(2015年):755社、4年目(2016年):1,456社、5年目(2017年):推計3,300〜3,400社と推移している。

登録学生数は、1年目(2013年):約4,500名、2年目(2014年):約5,500名、3年目(2015年):約20,000名、4年目(2016年):約40,000名、5年目(2017年):推計70,000名と推移しており、6年目(2018年)は、110,000〜120,000名を目指している。

Q.学生の集客、企業への営業はどのように行っているのか?

まず、学生集客については、良いサービスを作ることに徹している。学生の就職活動と社会人の転職活動では、求職者の行動特性は全く異なる。転職というのは人に相談しづらいが、学生の就職活動は人に相談することが多い。そのため、新卒向けのサービスは良くも悪くも口コミが発生しやすく、従って、良いサービスを作り、口コミで広げることが重要だと考えている。実際、「OfferBox」に登録する学生のうち4割は、口コミによるものだ。

企業への営業は、1社1社丁寧に信用を得ていくことにつきる。泥臭い営業をどこまで地道に積み上げることができるかだ。また、学生の登録数と企業の登録数のバランスを取りながら、営業を進めていくことも重要である。

Q.事業立ち上げに当たって、どのような苦労があったか?それをどう克服したか?

当初、企業への営業をテレアポで行っていたが、電話をかけても7割は担当者の不在などにより話すこともできなかった。その後、テレアポから飛び込み営業に切り替えたものの、抜本的な解決にはならずにいた。

しかしながら、2015年にマーケティング・オートメーション(MA)の仕組みを導入し、商談のアポイント獲得件数が10倍になった。MAツールを導入したことで、メールを送り、資料をダウンロードをした企業、ホームページを見た企業、料金体系を見た企業などを数値化することができるようになり、また、興味を持ってくれた企業だけに効率的に営業を仕掛けることができるようになった。

Q.「OfferBox」は、今後どのように進化するのか?

「新卒社員が3年以内に3割辞める状態を解消する」というビジョンの実現に向けて、「OfferBox」を通して採用した社員が定着し活躍できるよう、AIを活用して企業と学生のマッチング精度を高めていく。

具体的には、「企業が閲覧した学生にオファーを送った・送らなかった」という行動ログ、「学生が企業からのオファーを承認した・承認しなかった」という行動ログを取得し、それらの行動ログデータをAIで分析し、利用者ごとに検索結果を最適化している。これによって、企業が学生にオファーを送る工数は4分の1に減り、他方、学生のオファー承認率は1.5倍に高めることに成功した。現在、「OfferBox」を通して、企業が10名の学生に会うと1名採用できるようになっており、マッチングの精度は高まりつつある。

Q.当社の強みは?

当社の強みは、企業文化にあると考えている。一つは、創業メンバーが営業2名・エンジニア1名のチームだったため、当初より営業とエンジニアの距離が近く、一緒に問題解決していく企業文化が自然に醸成された。

また、当社では多様な働き方が認められており、多様な人材が活躍できる環境がある。例えば、時短勤務で働くママ社員、短期的にイギリスで在宅ワークする女性社員などが活躍している。お互いの働き方を尊重し合っており、月の平均残業時間は9時間を下回っている。

更に、当社では計画が未達に終わっても誰かを責めることはせず、課題の特定、解決施策の立案、施策の実行を愚直に行うことを第一にしている。

このように社員が働きやすい環境があるため、離職率は低く、現在70名の社員が在籍しているが、過去に7名しか辞めていない。また、社員全体の40%が縁故採用である。

Q.資金調達はどのように行っているか?

これまでの資金調達は全て借入によるものであり、外部資本は入れていない。関西では、ベンチャー企業への融資に積極的な銀行の担当者に巡り合うことができれば、3〜4年の中長期融資で3,000〜4,000万円を調達することは可能だ。ベンチャー企業が銀行から融資を受けるには、半沢直樹のような熱意のある融資担当者に対し、経済合理性のアピールだけではなく、会社の理念・ビジョン・実現したい世界観を伝え、それに共感してもらうことで応援してくださる。中長期的な視点で考えることが重要だ。

Q.今後の目標は?

「新卒社員が3年以内に3割辞める状態を解消する」というビジョンの実現に向け、「OfferBox」のサービスを磨いていきたい。

Q.それを実現するための課題は?

企業から学生にオファーを送るという文化をいかに醸成するかが課題となる。ひと昔前は、企業のリクルーターは大学に行き、学生の個人情報を集め、学生と会っていた。それが個人情報保護法の規制で難しくなり、リクルーター制度という文化がなくなってしまった。当社は、過去にあったリクルーターと学生のWETな関係性を、テクノロジーを駆使して復活させていきたい。

Q.経営者として果たすべき重要な役割は?

一つは、誰よりもリスクをとることだ。言い換えると、トップは誰よりも成功を信じているからこそ、リスクを取ることができる。例えば、お客様からクレームを頂いた時、一番初めに出ていくべきは社長であり、誰もがやりたがらない仕事を率先して引き受けていくべきだと考えている。そうでないと、社員がついて来ない。

二つ目は、仲間を集めることだ。仲間とは、社員だけでなく、様々なステークホルダーを含めた仲間だ。そのためには、相手を信用することが重要だ。自分から信用しなくては、相手からも信用してもらえない。会社で起こる全てのことは社長が悪く、全て自分が悪いと思わなければ仲間が集まって来ない。先入観を持ち込まず、人のせいにしないことだ。

三つめは、失敗したと言わないこと、最後まで諦めないことだ。例え会社が倒産しても、失敗ではない。まだ残された可能性あるはずだ。事業譲渡して再起を図るなど可能性はあるので、最後まで諦めないことが大切だ。

会社概要

会社名株式会社i-plug
事業内容新卒逆求人サイト「OfferBox(オファーボックス)」シリーズの運営
代表者名中野 智哉
代表プロフィール1978年12月9日兵庫県生まれ。2001年中京大学経営学部経営学科卒業。2012年グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。株式会社インテリジェンスで10年間求人広告市場の法人営業を経験。また新卒採用面接や新人営業研修など人材採用・教育に関わる業務を経て、2012年4月18日に株式会社i-plugを設立。
沿革2012年 株式会社i-plug設立。新卒ダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox」リリース
2013年 グローバル人材マッチングサイト「OfferBox Global」リリース
2013年 理系人材マッチングサイト「OfferBox Makers」リリース
2014年 体育会系マッチングサイト「OfferBox Athlete」リリース
2015年 第4回 日本HRチャレンジ大賞 イノベーション賞受賞
2016年 第1回 日本HRテクノロジー大賞 奨励賞受賞
2017年 博士人材マッチングサイト「OfferBox Ph.D.」リリース
本社所在地〒532-0011
大阪府大阪市淀川区西中島1-9-20 新中島ビル4階
URLhttp://i-plug.co.jp/