リクルート、住友商事も出資する訪問看護システムの医療テック

株式会社eWeLL 代表取締役社長CEO 中野 剛人 様

Q.起業の経緯・理由は?

私は、以前プロジェットスキープレーヤーをやっていた。13年間の選手人生の中で、日本1位や世界2位(ワールドファイナル)のタイトルを獲得したが、一度大事故を起こし、肝臓破裂で入院、昏睡状態から10日後に奇跡の生還を果たした。一命をとりとめた後も、病院での半年間の長期入院で看護師をはじめ医療従事者が大量の書類作成することを知った。2011年の引退の年に、住宅型の介護施設で10ヶ月間ボランティアとして現場スタッフを経験。リネン庫に大量の書類が保存されている事が印象的であった。その時に過去の経験も含めて、介護や看護の現場業務は非効率であるに違いないと確信した。その経験からこれから確実に需要がある在宅分野での業務効率化をICTの活用で解決する事ができると再び確信し、訪問看護のシステムで起業することに至った。

Q.訪問看護分野で起業した理由は?

まず、政府が推進する「地域包括ケア」政策や看取り問題は、今後の地域医療において、訪問看護が中心的な役割を果たすことになると考えている。創業当時、訪問看護ステーションの数、訪問看護に従事する看護師の数が、今後、急速に増えていくことが予想されていた。実際、2012年当時、訪問看護ステーション数は5,200施設、訪問看護に従事する看護師数は3.2万人であったが、2017年には9,070施設、4.1万人にまで増えている。更に、2025年までに訪問看護に従事する看護師の数を15万人にしようという計画もある。このような状況を踏まえ、今後、訪問看護が果たすべき役割は更に大きくなると考え、全く整備されていなかったこの分野での起業を決意した。

Q.なぜ、訪問看護向けシステムを手掛けようと思ったのか?

訪問看護の現場では、書類作成が手書きで行われるなど、IT化が遅れており、訪問看護向けのシステムはチャンスが大きいと感じていた。知人の看護師にヒアリングを行ったところ、1訪問あたりの書類作成に平均40〜45分もかかっていた。ITを使ってこの書類作成業務を効率化できれば、看護師の業務負担を軽減し、その分看護師が看護業務に集中でき、結果的に一人当たりの看護師が受け持つ訪問数を増やすことができ、訪問看護ステーション全体の収益改善に繋がると考えた。

Q.「iBow」は、どのようなシステムなのか?

「iBow」は、クラウド型訪問看護ステーション向け業務支援アプリで、訪問看護に特化した電子カルテシステムをクラウドベースで提供している。PCはもちろん、タブレット端末からも操作でき、利用者情報管理、訪問記録等の各種公的帳票の作成、服薬管理、医療・介護保険算定実績の確定などを、ボタン選択式の簡易的な操作で行うことができる。2017年8月現在、全国約270か所の訪問看護ステーションに導入され、約3,600名の看護師にご利用頂いている。

Q.「iBow」を利用すると、どのような効果があるのか?

「iBow」を導入した訪問看護ステーションでは、これまで1訪問あたり40~45分かかっていた書類作成を数分程度に短縮することができ、それによって、1日の訪問件数を3件から5〜6件に増やすことが可能になった。タブレット端末を使って、ボタン選択式の簡易的な操作簡単に訪問記録が作成できるため、書類作成業務が圧倒的に効率化され、看護師の事務負担を軽減することができる。

また現在の訪問看護ステーションに多く求められている「在宅看取り看護」を行う際にも、患者データをすぐに確認できる「iBow」が一助できている。昨今は個人情報保護の観点から在宅医療や看護の中でも、紙カルテを持ち出しできない医療業態が増えており、継続療養や治療という観点からカルテデータの確認は必須である事から、クラウドベースの「iBow」のニーズは高まっている。

Q.「iBow」の料金体系は?

当時一般的だったID課金ではなく、1訪問あたり100円で利用できる課金体系にした。我々は訪問看護の現場で、本当に価値のあるシステムを提供し続けられると信じていたので、そのようなコミット型の料金体系にした。

Q.システム開発において気を付けたポイントは?

訪問看護ステーションで働く看護師の声を元に、誰でも簡単に使える操作性に実際の業務にストレスを与えない操作感となるUI・UXにこだわっている。また、開発者の考える「完成版」にこだわるよりも、完成度75%程度でいち早くリリースし、現場の声を踏まえた改善・改修がスピーディに行えるようにプロジェクト形成を行なっている。iBow開発チームはプロダクトマネージメントを自社で行い、システムコーディングは外部発注という体制にし、開発スピードとコスト削減の両方を実現している。

Q.どのように、現場の声をシステムに反映しているのか?

「iBow」内に、ユーザーからのお困りごとを受け付けるページを設け、問い合わせを頂いてから当社よりコールバックする方法を採り、詳細なヒアリングを行っている。これまでに2,000件以上の声をいただき、サービス改善に反映してきた。バージョンアップは月1回のペースで行っている。また、観察項目や訪問して行った看護内容は訪問看護ステーションごとにカスタマイズできる設計になっており、個別の要望にも応えられる柔軟なシステムになっている。

Q.「iBow」は、今後どのように進化していくのか?

地域包括ケア連携システム「WeLL」というプラットフォームを開発中。コミュニケーションプラットフォームをオープンAPIとして提供し、多職種連携を進めていく。それによって、看護師と他医療従事者のコミュニケーションもICT化が実現し、更に「iBow」でサポートした訪問看護、在宅医療のデータが価値を持つようになる。

Q.社長の役割は?

常に、「お客様の目線」「使う側の立場に立ち続けること」が社長の仕事だと捉えている。当社のようなサービスは、利用者に使ってもらえなければ意味がない。しかし、エンジニアが要件定義ありきでシステム開発を行っていくと、利用者にとって使いにくいサービスになってしまうケースが多々ある。常に、「ITシステムを利用したことが無い方」の目線を持つことで、誰でも簡単に使えるシステムを実現し、看護師の意見をシステムに反映し続けることができると考えている。

Q.どのような企業風土か?

当社は、社員一人ひとりが経営感覚を持ち、課題・問題の定義から解決できる社内環境になっている。また役職に関わらず全役職員が対等な関係で意見交換ができるような、フラットな組織文化になっている。それぞれが責任を持って仕事をしている。一人ひとりが、お客様である訪問看護ステーションの方々にベストなソリューションを提案したいと考えている。システム開発担当者は改善点を日々利用者と接しているカスタマーサポート部門からヒアリングし、「iBow訪問看護システム」の機能改善・改良に力を注ぐ事ができる。営業担当者は自社製品に自信をもってお客様に勧めることが出来、既存顧客にも新しいお客様にも喜んでいただける。このような好循環そのものが、自然と高いモチベーションを維持し、自ら立てた目標を自力で追いかけるような企業風土になっている。

Q.採用の方針は?

採用時は特に「プラス思考かどうか」を見極めている。大きくは「ポジティブ、ポジティブでない人材」に分類し、積極的にポジティブ、つまりプラス思考な人材採用を進める。スキルや学力、頭の回転よりは、まずマインドセットを重視し採用することが肝要と考えている。その結果、チャレンジ精神を持ってプラスに事を運ぶ従業員が多く、現在の企業風土に繋がっている。

Q.これまでの資金調達は?

2014年6月に、シードファイナンスとして、個人投資家3名を引受先とする第三者割当増資を行った。最初の投資家は慎重に選ぶべきと言われるが、本当に素晴らしい御三方の支援を頂くことができ、とても感謝している。

2015年10月には、シリーズAとして、リクルートホールディングス等を引受先とする総額1.2億円の第三者割当を実施した。同社は、IT、医療、教育を成長産業と捉えており、医療分野では当社が初の投資だったという。また、同社からの資金調達によって、ネームバリューが高まり、人材採用面でも良い効果が出ている。

2017年6月には、シリーズBとして、住友商事、SMBCキャピタルを引受先とする総額2.5億円の第三者割当増資を実施した。住友商事からは数名が常駐、営業戦略の立案からマーケティング、組織体制の構築など、幅広く実行までハンズオンでご支援頂いている。また、同時期に、デットファイナンスでも2億円を調達した。

Q.今後の事業戦略は?

当面は、「iBow」のシェアを拡大することに集中したい。そのための戦略の一つとして、地域包括ケア連携システム「WeLL」の提供を行い、「iBow訪問看護システム」の導入を加速させたい。導入数を増やすことで、サービスのバージョンアップを進め、療養在宅データを蓄積していく。データを蓄積することで、さらに将来の更なるビジネスの拡大、地域医療への貢献に繋げられるとも考えている。

また、2017年6月に、「iBow訪問看護ステーション大阪」を開設した。自社で訪問看護ステーションを運営することで、現場でしか得られないリアルな経験やデータをもとに、システムをより使いやすく改善していく。

会社概要

会社名株式会社eWeLL
事業内容訪問看護支援サービス「iBow 訪問看護」の開発・提供
代表者名中野 剛人
代表プロフィール1973年、大阪府枚方市生まれ。元プロジェットスキー選手。28歳で飲食店を起業。2011年、プロ引退を機に本格的に起業家として歩み始める。2012年6月、株式会社eWeLLを設立。
沿革2012年 株式会社eWeLL設立。株式会社N・フィールドとコンサルタント契約を締結
2013年 「iBow 訪問看護記録システム」をリリース
2014年 「訪問看護支援システム」として特許を取得。1stファイナンスを実施
2015年 リクルートホールディング等より第三者割当増資を実施
2017年 住友商事株式会社、SMBCベンチャーキャピタルより第三者割当増資を実施
本社所在地〒541-0051
大阪府大阪市中央区備後町3-3-3 サンビル備後町9F
URLhttps://ewellibow.jp/index.html