14万社以上に導入される国内随一のビジネスチャットツール

ChatWork株式会社 代表取締役CEO 山本 敏行 様

Q.起業に至るまでの経緯は?

中央大学を休学して、米国の大学に留学した。留学中の2000年に、「EC studio」を立ち上げ、企業向けにホームページを使った売上アップ支援を始めた。帰国後、ネットビジネスで起業しようとしたが、父に反対された。結局、大学を卒業後、父が経営していた音楽スタジオを半日手伝いながら、半日ネットビジネスをやるような日々を過ごすことになった。

次第にネットビジネスが忙しくなってきたので、人を雇うことになった。ある時、遠隔で働いていたスタッフが、「山本さんの下で働きたい」というので、音楽スタジオを辞め、会社を設立しようと決心した。父に相談したら、意外にも認めてくれたので、2004年に法人化するに至った。

Q.どのような理念・想いで事業をやっているのか?

多くの経営者とお話をさせてもらう中で、経営理念がいかに大切かを学んだ。しかしながら、会社の理念を掲げる前に、経営者である自分自身がぶれてはならないと思い、25歳の時、「自分理念」なるものを創った。「私は、身近な人を幸せにするために、自ら積極的に行動します」という自分理念を掲げ、「自分→家族→社員→お客様→地域→日本→世界」の順に人々を幸せにしようと決めた。

経営者である私がぶれずに行動するための「自分理念」を確立した上で、現在の経営理念である「Make Happiness」を掲げるに至った。当社が定義している幸せとは、「心が豊かな状態のこと」であり、心の豊かさを実現するには、「経済的豊かさ」、「時間的ゆとり」、「円満な人間関係」の3つの要素が必須であると考えている。従って、当社では、この3つの要素を満たさない意思決定は行わないことにしている。

Q.現在の事業内容、事業展開の状況は?

クラウド型ビジネスチャットツール「チャットワーク」を開発・運営している。「チャットワーク」は業務の効率化と会社の成長を目的とした、メール・電話・会議に代わるコミュニケーションツールだ。また、「チャットワーク」は高いセキュリティ水準を誇り、大企業や官公庁にも導入できる水準を満たしている。現在、「チャットワーク」は日本最大級のビジネスコミュニケーションサービスにまで成長し、民間企業、教育機関、官公庁など約14万4,000社以上、世界205の国と地域に導入されている(2017年7月末時点)。

また、2012年にシリコンバレーに設立した子会社ChatWork Inc.にて世界展開を本格的に進めている。IT業界において、これまで日本製のビジネスツールが世界のプラットフォームになった事例はなく、「チャットワーク」は国産発のグローバルで通用するビジネスプラットフォームを目指している。

Q.なぜ、「チャットワーク」というプロダクトをやろうと思ったのか?

当初は、ホームページを使った売上アップ支援のツールやコンサルティングを約2万社に提供していたが、当社では「業務効率を上げるために、顧客に直接会わない」というルールを定めていた。そのために、「Skype」や「G Suite」など、あらゆるITツールを駆使して、顧客とのコミュニケーションを行っていた。

このようなITツールを駆使していることをある経営者に話したところ、とても興味を持ってくれた。そこで、当社が使っていたITツールを販売代理店として提供する事業を開始した。しかしながら、ソフトウェアのバージョンアップを都度キャッチアップしなければならず、それは大きな手間であった。また、当社が販売していたITツールを使いこなせている企業は全体の1%もなかった。その原因は、第一にコスト、第二にITリテラシー、第三に業種によって求められることが異なるという問題にあった。このまま代理店販売を続けていても日本を変えることができないと思い、自社プロダクトでこの問題を解決したいと考えるようになった。

その頃、当社では「Skype」のチャット機能を工夫して活用しており、メールよりも効率的だったため、「Skype」を使わない企業とは取引しないというスタイルを取っていた。私は、「Skype」というサービスを法人向けに展開する事業に将来性を感じたが、Skype社では法人向けのサービスを展開する計画は当時なかった。そこで、当社が法人向けのチャットツールとして自社で開発したのが、「チャットワーク」だ。

Q.「チャットワーク」は、どのような問題を解決しているのか?

「チャットワーク」は、先ほど述べた、従来、顧客が抱えていた3つの課題を解決している。第一に、フリーミアム(無料で使い始めることが可能なサービス)で提供している。第二に、農家や介護業界など、必ずしもITリテラシーが高くない業種の方々にも広く使ってもらえるよう、余計な機能をそぎ落とし、シンプルで使いやすいツールになっている。実際、利用企業の6割は非IT企業である。第三に、「チャットワーク」はどのような業種でもほぼ100%使われていたメールを代替し、コミュニケーションを効率化するツールであるため、どのような業種であっても、その効果を享受することができる。

Q.「チャットワーク」のリリース当時、競合はいなかったのか?

開発当初は、世界的に見ても競合はほぼいなかった。「チャットワーク」開発前に「Google Wave」というツールが存在していたが、一年近くでサービスを終了している。「Facebook」や「Skype」は個人向けであり、法人向けの展開は当時していなかった。「Microsoft」はクラウドサービスよりもハードが強かった。また、法人向けでは、オーストラリアのAtlassian社が提供する「HipChat」というツールが存在するが、主にエンジニア向けのツールであり、直接的な競合になるとは考えていない。このように、事実上、直接的な競合が不在であったため、ビジネス向けのチャットサービスを開発すれば、世界的なインフラになれるのではないかという勝算があった。

Q.「チャットワーク」のリリース後、国内でも類似サービスがいくつか出てきたと思うが、生き残っているサービスは少ない。「チャットワーク」が普及できたのはなぜか?

第一に、2000年からチャットを使いこなして仕事をしているため、ビジネス・チャットの活用ノウハウが社内に蓄積されていたことだ。例えば、ストレスなく外部と繋がれるよう、「オンライン・オフラインの表示」や「既読の表示」は敢えて実装しないなど、IT初心者でも使いやすいUIにこだわっている。

第二に、予めマネタイズ方法を考え抜いた上で、サービスを開始していることだ。以前、アクセス解析ツールをフリーミアムで展開し失敗した経験がある。この失敗から、「予めマネタイズ方法を考え抜いておかないと、フリーミアムで成功するのは極めて難しい」ということを学んだ。そのため、「チャットワーク」では個人向けのプラン、法人向けのプラン共に、始めから有料プランを用意している。

第三に、過去の事業によって、業務効率を上げたい企業1000社のリストを蓄積していたことだ。いわば当社の信者とも言える企業のリストだ。また、企業向け製品のウェブマーケティングにおける経験とノウハウも蓄積されていたので、無駄な宣伝コストをかけることなく、急速に利用企業を増やすことができた。

Q.今後、「チャットワーク」というプロダクトは、どのように進化していくのか?

現在、「チャットワーク」は、「メールによる非生産性」を解決するツールとして利用されているが、次は「会議による非生産性」を解決していく方針だ。会議による非生産性は、パワーポイントやワードを使っていることに一つの原因があると考えており、その辺りの問題を解決していきたい。

更には、「業務を効率化するツール」としてだけではなく、「売上アップにも貢献するツール」としても昇華させていきたい。具体的には、売上アップに貢献できるツールを提供している企業と連携し、「チャットワーク」のプラットフォーム化を進めている。

Q.今後、会社として取り組みたいことは?

現在、神戸市と検討を進めながら、グローバル展開を目指すスタートアップが集まる街を作ろうとしている。神戸市の山間にある谷上という地域で、仕事に没頭するにはこの上ない環境である。まさに日本版のシリコンバレーにしたいと考えている。まだインフラの整備などは進んでいない状態だが、すでに移住を希望する起業家も集まりつつある。また、このプロジェクトを通じて、「ChatWork」という会社やプロダクトが、口コミで広がり、更に知名度を高めることができるだろう。

Q.シリコンバレーに5年間赴任して得たことは?

世界最先端のシリコンバレーを肌で感じ、日本とは経営のやり方が違うことを認識できた。シリコンバレーでは、究極の民主主義を望み、自由で公平な意思決定がなされていた。シリコンバレーで生活した5年間で、日本の10年先、20年先を見ることができた。

また、武器を持たずに海外に進出しても、世界では通用しないということも分かった。それは、ペーパードライバーがF1に出場するようなものだ。そのため、神戸の谷上プロジェクトでは、世界最高峰のF1を目指した路上練習のような機会を提供していきたい。たらいの水のように、押し出せばいつか巡り巡って元ある場所に戻ってくるので、私がこれまでに得た経験や情報は惜しみなく、発信していきたいと考えている。

会社概要

会社名ChatWork株式会社
事業内容・ChatWork事業(ChatWork)
・ソフトウェア販売事業(ESETセキュリティソフト)
代表者名山本 敏行
代表プロフィール1979年、大阪府生まれ。2000年、中央大学商学部在学中に、ロサンゼルスで創業。2004年にChatWorkの前身である「EC studio」を法人化し、2011年、クラウドベースのチャットツール「チャットワーク」の販売を開始。2012年、ChatWorkに社名を変更。米国法人をシリコンバレーに設立し、現在は海外と日本の拠点を行き来しながら「チャットワーク」の普及活動に邁進している。
沿革2000年 創業(旧:株式会社 EC studio)
2004年 会社設立
2011年 ビジネスチャット「チャットワーク」をリリース
2012年 ChatWork株式会社に社名変更
本社所在地〒564-0032
大阪府吹田市内本町 2-21-8
URLhttp://corp.chatwork.com/ja/